約 3,981,539 件
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2225.html
人影にいち早く気がついたガロードはティファを連れて素早く岩陰へと隠れた。 岩に背を預けたまま顔を覗かせ、背後の様子を窺う。 彼の視線の先には四人の魔導師がいた。 内、二人は金髪の若い男。 もう二人は女性で、片方はどう見ても子供だ。 そのことに一瞬戸惑いを感じたがガロードだが、時空管理局は才能と本人の意志さえあれば入局出来ることを思い出す。 恐らくあの子供もそういう者の一人なのだろうと結論付け、再び様子見を始めた。 幸いにもまだ誰にも見つかってはいないようで、ガロード達を探して辺りを見回している。 更に後方にはガロードが潜入した白い船が停泊しており、それを見た彼には魔導師らの目的が容易に想像出来た。 (あいつら……ティファを連れ戻しに来たな) 一難去ってまた一難。 ガロードは緊張を解いた体を再度引き締め、GXを持つ手に力を入れる。 手と額にはうっすらと冷や汗が滲んでいた。 一方、ティファを追って来た四人の魔導師達――正確には二人の魔導師と二人の騎士―― 大破したガジェットを囲み、燦々たる有り様を目の前にしていた。 「I型とは言え、AMFを持ったガジェットをここまで見事に破壊するとはな」 その内の一人、ヴォルケンリッターが将・シグナムはその場にしゃがみ込み、ガジェットの破損具合を見極めていた。 ガジェットの状況や傷口から、破壊した人物の情報を少しでも得るためだ。 先程まで激しく燃えていたであろう炎も今は納まり、今は黒い煙だけが立ち上っている。 しかし破損状況は思ったよりも酷く、ガジェットの残骸から得られる情報は無いに等しかった。 唯一解ったことと言えば、鋭利な刃物で両断されたということ位。 ある意味予想通りの結果に溜め息をつき、シグナムは立ち上がった。 「こりゃ、久々に骨のある相手と戦えそうだぜ!」 その横で、白と赤が目立つバリアジャケットを着た魔導師が己の闘志を燃え上がらせていた。 彼の名はウィッツ・スー。 ジャミルに傭兵として雇われおり、二丁のライフル銃型ストレージデバイス『ガンダムエアマスター』を操るフリーの魔導師である。 根が熱い性格であるウィッツは強い相手と戦えるとあり、任務を忘れて気分を高揚させていた。 そんなテンションの上がるウィッツを、少し離れた所から冷めた目で見ている魔導師がまた一人。 「ウィッツの奴、張り切っちゃってまぁ。やることだけちゃっちゃとやって、ギャラ貰うのが大人じゃないのかねぇ?」 濃い緑のバリアジャケットを身に纏い、腕、肩、足など体中を兵器型のデバイスで武装しているのは、ウィッツと同じくフリーランスで魔導師をやっているロアビィ・ロイ。 体中に装備された様々な兵器型デバイスの管制・運用を行っている高処理性能ストレージデバイス『ガンダムレオパルド』の所有者で、彼もまたジャミルに腕を買われ雇われていた。 ウィッツとは対照的にクールな性格のロアビィは敵の魔導師に大して興味がなく、一見するとやる気がないようにも見える。 「お前! 口動かしてないでさっさと探せよな!」 「はいはい、分かってるって」 その姿勢が癪に障ったのか、すぐ側でティファの捜索をしていたヴィータはロアビィに向かって怒声を浴びせた。 愛機グラーフアイゼンを振りかざして懸命に威嚇するも、残念な事にあまり怖くない。 ロアビィはヴィータを軽く受け流し、ティファの捜索を再開した。 四人はゆっくりと、ゆっくりと、ガロード達へ着実に近づいて行く…… 第二話「あなたに、力を…」 (来る……っ!) スラッシュフォームに変形させたGXを握り、ガロードはシグナム達の動きを伺っていた。 少しずつ近づいてくると同時に緊張も高まってくる。 相手は四人、こちらは実質一人。 圧倒的に不利な状況の中、現状を脱出できる最良の策を必死になって考える。 (ここから逃げても見通しがいいから見つかっちまう。見つかっても逃げきれる方法! なんか、なんかないか!?) 考えれば考えるほど思考は泥沼化し、一向に良い案など浮かばない。 更に刻刻と近づく足音がガロードから落ち着きを奪っていく。 すぐそこまで迫る複数の足音。 頭を抱えて悶え苦しむガロードだったが、ふと、一つの名案が迷走する頭に閃いた。 ……この場合、迷案と言った方が正しいのかもしれないが。 兎にも角にも、もう一刻の猶予も残されていない。 ガロードはこの状況を脱するべく立ち上がった。 横ではティファが心無しか不安げな表情を投げ掛けていたが、安心させる為に笑顔で答える。 シグナム達がいるであろう方を向き、ガロードは隠れ蓑にしていた岩に飛び乗った。 「やーいっ!! お前達!!」 開口一番、大声を張り上げその場にいる全員の視線を集めた。 見た目からして腕利きの魔導師三人(ヴィータは数に入れていない)を前にしても、ガロードの声色は全く変わらない。 一人でアフターウォーを生き抜いてきた彼にとって、こんな状況はさして珍しくないのだろう。 大きな賭は慣れっこなのだ。 「出やがった、なぁっ!?」 「が、ガキンチョだぁ!?」 対するウィッツ達は未知の魔導師の登場に驚愕し、同時に落胆した。 ガジェットを撃破した魔導師がこんな子供という事実に。 特にシグナムとウィッツは久々に実戦で魔導師と手合わせ出来ると踏んでいただけに、落胆の具合も半端ではなかった。 ロアビィとヴィータに関しては呆れ果てて物も言えない。 目の前がそんな状態になっているとは露知らず、ガロードは一世一代の賭け始めた。 「もし攻撃したら恐ろしい事になるぞ! いいか、よーく聞けよ! このデバイスにはなぁ、おっそろしい魔法が記録されてるんだぞ!!」 「ほぉ……それは興味深いな」 かかった! シグナムの呟きを耳にしたとき、ガロードはそう確信したという。 残念な事に、その言葉に含まれていた大きな皮肉の意を全く理解せずに。 妙な自信をつけたガロードは更に続ける。 「だから! それを使われたくなかったら大人しく……」 『Rifle bullet』 『Grenade launcher』 「ん?」 不意に、デバイスの音声が響いた。 ガロードが音声の発生源を見ると、ウィッツとロアビィが自分に向けてデバイスの銃口を見せている事に気がつく。 銃口にはそれぞれ魔法陣が展開されていた。 ……まさか。 冷や汗が頬を伝った瞬間、光の銃弾と高密度魔力弾がガロードを襲った。 「おわああぁっ!? ととっ!?」 急に仰け反った為バランスを崩し、そのまま岩の横へと倒れ込むガロード。 それが幸いし、ウィッツのライフルバレット、ロアビィの放ったグレネードランチャーを奇跡的に避けることが出来た。 が、代わりに左半身が硬い地面に直撃。 少し高さがあった事も手伝い、鈍痛がガロードの体を駆け巡る。 「馬鹿か! んな見え透いた嘘が通じるワケねぇだろ!!」 「嘘はイケないなぁ、嘘は!」 くだらない嘘を聞かされ怒りが増し、今にもガロードを撃ち殺さん勢いで怒鳴るウィッツ。 続くロアビィも言葉こそは軽いが、強い呆れが聞いて取れる。 「く、くそぅ……なんでバレたんだ?」 バレていないとでも思ったのか。 ウィッツ達は痛む脇腹をさすりながら立ち上がるガロードに冷めた視線を向けた。 ……人を騙すにはそれなりの材料とシチュエーションが必要になる。 今回ガロードには、相手に秘密兵器を持っていると思い込ませるだけ材料の不足していた。 更に騙す側が冷静さを忘れてしまっていたのだから、この結果は至極当然と言えるだろう。 一世一代の賭け、早くも終了である。 それでもガロードは立ち上がり、GXの刃先をウィッツ達に向けた。 飽くまでも対抗する気らしい。 「ったく……さっさと伸して船に連れ帰っちまおうぜ。ガキの相手なんかしてられっか」 「待てよ」 「あぁ?」 痺れを切らしたウィッツがエアマスターの銃口を再びガロードに向けようとした時、その行動を止める人物が現れた。 邪魔をされたウィッツは露骨に嫌そうな顔で止めさせた人物を睨み付ける。 意外にもそれは、普段血の気の多いヴィータであった。 ウィッツの睨みにも全く動じることなく、寧ろ睨み返している。 「相手はまだ子供だ。んな目くじら立てなくても、話し合いでどうにかなんだろ。ここはあたしが説得してやる」 エアマスターの銃口を無理やり下ろさせると、ヴィータはウィッツを押し退け一歩前へ出た。 ウィッツは不満に顔を歪めていたが、言い争うのも面倒だと早々に諦める。 因みに、「お前も子供だろ」と思ったのはここだけの秘密だ。 「ヴィータにしては珍しいな。高町なのはに触発されたか?」 「るせぇ」 シグナムの嫌味を流しつつ、ヴィータはグラーフアイゼンを待機フォルムへと変形させた。 実際、ヴィータは『高町なのはの一件』以来確実に大人の対応が出来るようになってきている。 『話し合いの場には武器を持ち込まない』という10年前の自分の言葉を律儀に守っているのも、その影響なのだろう。 発端はともかく、シグナムはヴィータがこの数年で変わってきた事を、将として内心嬉しく思っていた。 「おい、お前」 「な、なんだよ!?」 ガロードはGXの魔力刃を見せつけ、急に声をかけてきたヴィータを威嚇する。 だが彼女は全く気にした様子もなく、涼しい顔で言葉を続けた。 「誘拐、並びにデバイスの窃盗。これだけでも結構な罪だ。普通だったら即逮捕、だな。だけどな、おまえが浚った少女をこっちに渡せば、お前にはまだ弁護の余地ってやつがある。武装を解除して素直に」 投降しろ、とヴィータは言おうとしていた。 ――この後数分間押し問答を繰り返し、最後には自首させる。 どうしても話し合いに応じない場合にのみ、なのは流で『お話する』―― それがヴィータの考えだった。 しかし、それはガロードの爆弾とも言える発言の前に脆くも崩れ去ったのだった。 「うるせえっ! 『チビ』の癖に難しい事ゴチャゴチャ言いやがって! 『ガキ』はお家に帰ってお人形遊びでもしてろよっ!!」 ブツンッ。 ガロードが言い放った刹那。 その場に、張り詰めた糸が、千切れたような音が響いた。 直後、先程まで涼しい顔をしていた筈のヴィータの様子が急変。 腕が微弱に痙攣し、額には血管が浮き出る。 目もつり上がり、まるで鬼の形相かと見紛う程だ。 そして何より、怒りの対象であるガロードだけでなく、無関係のウィッツやロアビィまでもが鳥肌を感じる程の、炎のように赤い殺気を全身に漲らせていた。 「お前ら、引っ込んでろよ……」 腹の底から絞り出したような低い声で後ろの三人を威圧するヴィータ。 既に彼女の手にはハンマーフォルムとなったグラーフアイゼンが握られている。 そして次の瞬間。 「こいつはあたしがぶっっっっ殺す!!!」 阿修羅と化したヴィータがガロードに突撃した。 話し合いを持ち掛けた方がこれでは、もう話し合いも何もあったものではない。 後ろで傍観していたシグナムは、己の考えを直ちに訂正したという。 やはりヴィータはヴィータか……と。 一方、急に襲われたガロードはヴィータを迎えうち、激しい鍔迫り合いを繰り広げていた。 「くっ……!」 「うぉおりゃあああ!!」 ヴィータのとてつもない気迫に押されて行くガロード。 グラーフアイゼンとGXの刃の交差部からは激しい火花が飛び散っていた。 ――このままじゃやられるっ! 危機感を覚えたガロードは全力を持ってグラーフアイゼンを押し返す。 しかしヴィータが後退する気配は微塵もない。 寧ろヴィータの力は増していき、ガロードの方が更に押し返されていた。 それに気づいたガロードはとっさに分が悪いと判断。 押し返すのではなく受け流そうとGXの刃を傾ける。 「うおっ!?」 これは思いの外うまく行った。 真正面に膨大な力が掛かっていたグラーフアイゼンが魔力刃の上を滑るように振り下ろさる。 そのままガロードの体ギリギリを素通りし、地面に小さなクレーターを作った。 ヴィータもグラーフアイゼンと共に大きく前へ仰け反り、大きな隙が生じる。 チャンス到来だ。 ガロードはがら空きになったヴィータの背にGXを振り下ろした。 だがヴィータもこのまま黙ってはいない。 地面を抉って無理やりグラーフアイゼンを引っ張り出し、柄でGXの刃を防ぐ。 「なっ!?」 「ヌルいんだよっ!!」 ヴィータの力技に驚愕し目を見開くガロード。 その瞬間今度はガロードに隙が生まれた。 ヴィータの鋭い目線がそれを捉える。 GXをガロードごと押し返すとグラーフアイゼンを大きく振りかぶった。 「しまっ……!!」 「おらあああああああ!!」 「飛龍一閃!」 鉄槌の一撃がガロードを襲うかと思われたその時。 二人を紫の光龍が襲った。 光龍を素早く視界の端に認めたヴィータはその場から後ろへ跳躍し難なく交わす。 しかし反応が遅れたガロードは直撃こそ免れたが、衝撃波をまともに受けた。 吹き飛ばされ、背中から地面に滑り落ちる。 そのままティファの隠れている岩陰まで砂埃を上げながら引き擦られていった。 「引っ込んでろっつっただろ!!」 今のでヴィータの怒りの矛先が変わったのか、彼女は魔法が飛んできた方を睨みつける。 視線の先にはシグナムが涼しい顔で立っており、愛機であるレヴァンティンを鞘に納めていた。 「お前こそ熱くなりすぎた。我々の任務は飽くまでティファ・アディールの保護。このままお前が暴れれば、近くに隠れているであろう彼女にも危険が及ぶぞ」 「ちぇ! わぁってるよ!」 シグナムの忠告をすんなりと受け入れたものの、やはり怒りの熱(ほとぼり)は冷めないらしい。 つまらなそうに吐き捨て、グラーフアイゼンを肩に担いだ。 吹き飛ばされたガロードはというと、シグナムがヴィータに説教をしているうちに岩陰のティファの下へ戻っていた。 ヴィータの怒りが籠もった攻撃を受けた手は、デバイド越しだったというのに未だに少し痺れている。 ガロードは手を強く振って痺れを紛らわし、同時にヴィータを戒めるシグナムの言葉にしっかりと耳を傾けていた。 そしてシグナムの説教が終わった直後、新たな策がガロードの頭に閃く。 (そ、そうか、あいつらティファを狙ってるんだっけ。それじゃあ……) なんとかこの場を切り抜けるため、ガロードはティファに向き直った。 一方、ヴィータの暴走により蚊帳の外へ追いやられたウィッツとロアビィは、ティファが隠れている岩陰のすぐ側まで近付いていた。 既にティファを視認しており、今にでも確保出来る程の距離だ。 (しっかし、シグナムさんも策士だねぇ。ヴィータちゃんの暴走餌にして、その隙に俺達が目標を確保しろってんだから。出来る女って、俺好みかも) (そうかよ。……そろそろ行くぜ、あのガキ戻って来やがった) (おっ、それはちょっと不味いね。じゃ、1、2の3で行こうか?) (ガキか。まぁいい……1) (2の……) ――3っ! 念話をそこで切り、ウィッツとロアビィはガロード達へと襲いかかる。 いや、襲いかかろうとした。 「っ! 待て!」 「何ぃ!?」 ロアビィが声を張り上げウィッツを引き止めた。 ウィッツも目の前の光景に思わず目を見開く。 なんと、再び岩の上へと躍り出たガロードがティファの首に魔力刃を突きつけているのだ。 驚いたのはウィッツ達の反対側にいるシグナム達も同じで、絶句したまま動けないでいる。 「これでどぉ? 撃てるもんなら撃ってみる!?」 「このヤロっ!」 「おおっと動かない。この子に傷がついちゃってもいいわけ?」 「くっ!」 ティファの首に突きつけられた魔力刃を強調するようにちらつかせ、ガロードは強気の態度でヴィータを脅す。 頭に血が上っていたヴィータも、今度ばかりは迂闊に手が出せないでいた。 そしてヴィータの反応を目の当たりにしたガロードは、今度こそ自分が優位に立ったことを確信し、更に畳み掛けるように言葉を続ける。 「やっぱ撃てないよねぇ? なんたって、あんた達の狙いはこの子なんだから! 少しでも下手なことしたら、どうなるか分かってるよね?」 「ちぃっ! 卑怯なマネを!」 「なかなかやるじゃない」 「ハートのエースはこっちが握ってるって事、お忘れなく!」 『Reflector wing』 シグナム達四人にただならぬ緊張感が漂う中、ガロードの背に銀色に輝く『X』を象った魔力の翼が現れる。 するとどうだろう。 ガロードの体がティファと共に二、三センチ程地面から浮き上がった。 「じゃあね!」 シグナム達に軽くウインクし、ガロードはティファを抱えたまま岩の上から飛び上がった。 そのまま地面に着地し、ホバリングのように地面から少し浮いて一目散に森へ疾走する。 スピードはなかなか速く、滑走した後に砂埃を巻き上げていった。 しかし、それを黙って見つめている程ウィッツの気は長くはない。 「あの餓鬼っ! 馬鹿にしくさって!!」 「待てっ!」 エアマスターの銃口を向け今度こそガロードを狙撃しようとした時、今度はその行動をシグナムによって制止させられた。 「何回も何回も止めんじゃねぇっ!!」 「今攻撃すればティファ・アディールにも確実に当たるぞ!」 「っ! ……くそっ!!」 いい加減に嫌気がさしたウィッツは激情し、シグナムに食ってかかる。 だがシグナムの尤もな意見の前に、ウィッツの怒りはまたも不発に終わった。 溜まった鬱憤をぶつけるように足下の小石を思い切り蹴飛ばす。 そうこうしている内にガロードの姿は既に無くなり、舞い上がった砂埃だけが虚しく漂っていた。 その光景に溜め息をつき、ロアビィはウィッツに話し掛ける。 「俺は一度フリーデンに戻るよ。契約がある間はデバイスのメンテとかタダだし。あそこの技師、腕いいんだよね」 「俺も一服するぜ。……ったくよぉ、一休みしないと腹の虫が収まらねぇ!」 「あたしもだ!」 内から湧き上がる殺意を隠そうともせず、ウィッツとヴィータはフリーデンへ向かって飛び立った。 そんな二人に呆れたのか、シグナムは小さな溜め息をつくと同じくフリーデンへと飛び立つ。 ロアビィはその後を追うように、足に装備したローラー型デバイスで地面を疾走していった。 その頃、上手くシグナム達を撒いたガロードはすぐさま魔力刃を消し、抱えていたティファを降ろた。 辺りの安全をしっかり確認し、バリアジャケットを解除する。 青白い光がガロードを包み、一瞬の内に元の赤いジャケット姿へと戻った。 そしてティファへと向き直り、すこし不安げな表情で彼女の顔を見る。 「……ごめんな、怖くなかったか?」 首に傷がついていないか確認し、心底済まなそうに謝るガロード。 それ対し、ティファは口元を緩ませ仄かに微笑む。 「信じて、いたから」 ティファのこの一言に、ガロードの心が一気に軽くなる。 不安は安心へと変わり、こそばゆい気持ちにティファを直視できなくなる。 「……うん」 照れくさそうに頬を掻きながら、ガロードもティファに微笑み返した。 人質にしたのだから流石にティファも自分に不信感を抱いたのではと不安に思っていたガロードだったが、それはいらない心配だったようだ。 そんな和やかな雰囲気の中、二人を茂みの中から見つめる人影が一つ。 鋭く光るその視線は、ガロードの手にしているGXに注がれていた。 (へへへっ……こりゃ、久々に透き通った酒にありつけるぜ) AFTER WAR LYRICAL NANOHA XtrikerS- 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/a_nanoha/pages/111.html
魔法少女リリカルなのは/魔法少女リリカルなのはA sビジュアルファンブック 魔法少女リリカルなのはシリーズ 魔法/世界観に関する資料
https://w.atwiki.jp/togazakura/pages/69.html
ここは、魔法少女リリカルなのはの音楽を、展示しています 魔法少女リリカルなのは ファーストシリーズの音楽集です 魔法少女リリカルなのはA's セカンドシリーズの音楽集です 魔法少女リリカルなのはStrikerS サードシリーズの音楽集です
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/1484.html
新暦75年。 次元震の地球への影響は著しかった。 環境の激変や生態系の破壊が起こり、唯一の望みである魔法技術も殆どが失われ、復興も絶望的な状況となった。 度重なる次元震の余震や治安の悪化も手伝い、人々に安息が訪れることはなかった。 だが、それでも人は生き続けた。 ……いや、生きねばならなかった。 戦後15年、地球環境はようやく安定期に入った。 次元震の余震もだんだんと形を潜め、禁止されていた次元世界間移動も解禁された。 その際、アフターウォーからミッドチルダへの移民が続出し、ミッドチルダでも受け入れへの対策が本格的に始まってきていた。 しかし、アフターウォーに暮らす人々に比べると、移民者の数はまだまだほんの一握りに過ぎなかった。 皆、自分の生まれ故郷である地球を見捨てることが出来なかったのである。 アフターウォーに残った人々は来たるべき時代に望みを託して、『今日』を必死で生きている。 そしてここにも、『今日』を生きる人々が作った街があった。 灼熱の日が注ぐ砂漠の中にある小さな街。 建造物はどれもボロボロであったが、街には人々が溢れていた。 そして人々には笑顔があった。 その姿は、今の時代の惨状を忘れさせるほど輝かしいものだった。 「前の戦争で、超能力を使う兵隊がいたという噂を聞いたことがあるだろう? あれは根も葉もない流言、デマの類かというとそうではない!」 そんな人が賑わう街の中、二人の男を囲む小さな人だかりが出来ていた。 大道芸でも始まるのかと期待しているのだろう、男の長々しい前口上に人々は真剣に耳を傾けていた。 二人の男の片方、汚らしい軍服を着た小太りの男は更に声を張り上げ、観客に向かい話を続ける。 「実はこの男こそ、超能力兵士の生き残り。かの戦いでは、自分と二人で15隻の戦艦を沈めたというのだから間違いない! 人は我らのことを『赤い二連星』と呼んだ!」 「私こそ、新時代を迎えた人類の進化すべき姿」 小太りの男が話を一旦止め、黙って座っているだけだったもう片方の男が口を開いた。 観客の視線が今度はそちらに移動する。 男は額に傷があり、如何にも歴戦の兵士と言った雰囲気を醸し出していた。 小太りの男……もとい赤い二連星の太い方は掴みに確かな手応えを感じ、更に話を続ける。 「この混迷の時代、我らの力こそ必要なのである! どうだろう!? 我々を雇うなら今しかないぞ!」 「さぁっ!」と、赤い二連星の太い方が急かすように付け加える。 が、彼の口から『雇う』という単語が出た途端、観客の間には落胆したような微妙な空気が漂った。 目を輝かせていた子供達ですら白い目で二人を見ている。 「なんだぁ? 新手の職探しかよ」 観客の一人がそう呟いた。 それに釣られて他の観客も苦笑いを浮かべ始める。 しかし、赤い二連星の太い方はその言葉が癪に障ったのか、演説の時よりも声を張り上げ反論を始めた。 「な、何を言う! 今はこう汚い身なりをしているが、いざとなれば……」 と、これから話が本題に入ろうとした時だった。 突然耳を貫かんばかりの爆音が街中に響いた。 なんと赤い二連星の二人が演説をしていた後ろ建物の看板がいきなり爆発したのである。 赤い二連星の声はその音と眩い光に遮られ、ギャラリーは何が起きたのか分からず狼狽えている。 そして、大通りいた誰かが大声で叫んだ。 「ま、魔導師だっ!」 次の瞬間、街の入り口付近から放たれた砲撃魔法により、街は再び爆音に包まれた。 第一話 「月は出ているか」 「ヘッヘッ、今日はイイ仕事が出来そうだぜ」 砲撃魔法で街を破壊した張本人、趣味の悪いバリアジャケットを身に纏った流れの魔導師・クロッカは上機嫌だった。 それというのも、襲撃した同業者から時空管理局武装隊専用のストレージデバイスを仕入れたからだ。 武装隊専用と言うだけあり、デバイスには様々な魔法が記録されていた。 早速どこかで一仕事と意気込んでいた時、ちょうど見つけたのがこの街だったのだ。 「さぁて、どこから漁るか」 クロッカは杖を構え、街の中を品定めするように見回す。 だが、街を破壊された人々も黙ってはいなかった。 「クソぉお! 野党め!!」 「街から出てけっ!」 拳銃、ライフル銃、マシンガン、極めつけはロケットランチャーと、時空管理局が禁止している質量兵器の数々を人々は構えた。 自分の身は自分で守る。 アフターウォーで生きてゆく為には、質量兵器を使ってでも戦わなければならないのだ。 質量兵器を構えた人々は、それが当然のことのように引き金を引いた。 一気に弾丸が発射され、クロッカを襲う。 「おい」 『Protection』 弾丸がクロッカに着弾する直前、彼を覆うように現れたバリアが、降り注ぐ弾丸から彼を守った。 基本防御魔法であるプロテクションを発動したのだ。 弾丸は全てプロテクションに防がれ、パラパラと地面に落ちる。 プロテクションの強固な守りは、ロケットランチャーの弾丸さえ防いだ。 そして、攻撃されている当の本人は苦虫を噛み潰したような顔をしている。 「ちっ、何も皆殺しにしようって訳じゃねぇんだが……そっちがその気なら容赦しないぜ!!」 弾丸の雨が止んだ一瞬を見計らい、クロッカはプロテクションを解いた。 その刹那、デバイスの杖先から直射型の魔力弾が放たれる。 放たれた魔力弾は直撃と同時に爆発を起こし、街の被害を拡大させていった。 非殺傷設定が解除されているのか、その破壊力は無慈悲としか言いようがなかった。 着弾点には大怪我を負って動けなくなってしまった人が転がっている。 街の人々はクロッカの猛攻を止めようと必死で抵抗を続けるが、弾丸は魔力弾により打ち消され全く意味を成さなかった。 「くうぅぅ! お、おい! どうにかしろよ! 赤いなんとかなんだろ!?」 地面に伏せ、先程赤い二連星の話を聞いていた男が二人の方を向く。 が。 「ひいいぃっ!」 「た、助けてくれえ!」 今がいざという時だというのに、肝心の二人は既に遠くへ逃げていた。 次の瞬間には魔力弾の餌食になっていたが。 「くっ……魔法が使えれば何でもありかよ! せっかく街も軌道に乗ってきたっていうのに……!」 クロッカから少し離れた建物の中に、子供や老人、怪我人など戦えない人々が避難していた。 大通りからは陰になっている為気付かれてはいないが、時間の問題だろう。 外の惨状を歯噛みしながら見つめるしかないことに憤りと、いつ襲われるか分からない不安が人々を包む。 それでも彼らにはどうすることも出来なかった。 その中にいた一人の少年を除いては。 一方屋上では、赤ん坊を背負った初老の女性がスナイパーライフルでクロッカを狙っていた。 横にはもう一人彼女の子供がおり、不安げにライフルを見つめている。 「いくら魔導師でも、砲撃の隙を狙えば……」 スコープを覗きながら砲撃の隙を伺う。 魔力チャージ、まだ撃てない。 魔力弾を放った、隙は出来ない。 レンズの中心点にクロッカの眼球が来たとき、砲撃後の隙が生じた。 「喰らえっ!」 ライフルから鋭く尖った弾丸が撃ち出される。 そのまま頭を貫き、クロッカは絶命……する筈だった。 しかしライフルの弾はクロッカに当たらず、彼の一歩手前でバリアに弾かれ、地面に虚しく転がった。 「なっ!? オートガード!?」 女性もここまでは予想していなかったらしい。 気付かれまいとライフル銃を引っ込めるが、今の一撃はクロッカに居場所を知らせてしまった。 クロッカのデバイスが親子に向けられる。 誰もが撃たれると思った次の瞬間、避難場所にいた少年が一人、クロッカに向かって駆け出した。 「ん……?」 少年に気付いたクロッカが、デバイスをそちらに向ける。 しかし先に動いたのは少年の方だった。 手に持った小瓶をクロッカへ思い切り投げつけたのだ。 当然オートガードが働き、少年が投げた小瓶を防ぐ。 瞬間、小瓶が破裂し、目を焼かんばかりの光がクロッカを襲った。 「うわあぁっ!? め、目があ!!」 フィールド系の防御魔法でない限り、光を防ぐことなど出来ない。 それに目だけはどうやろうとも鍛えられないのだ。 少年の狙いはまさにそこだった。 「く、くぅ……や、野郎っ!! いったい誰が!?」 「俺だよ!」 「うぉっ!」 視力がまだ回復仕切らぬクロッカの後頭部に、黒く冷たい鉄の塊が押し付けられた。 もちろん拳銃である。 引き金に指を掛けているのは、先程の少年だった。 「へへん。いわゆる『ホールドアップ』ってやつ?」 「こいつ……いつの間に!」 「おぉっと、動かない。この距離なら、魔法を使うよりこいつを撃つ方が早いよ? きっと」 少年が引き金に掛けている指に力を込める。 強く押し付けている為、そんな小さな動作さえ事細かに伝わった。 クロッカは観念したのか、抵抗する素振りを全く見せない。 「……へっ、気に入ったぜ、小僧。なんだったら俺の仲間にしてやっても……」 「寝呆けたこと言ってないで、ホールドアップだってば」 「ひっ」 クロッカの後頭部に更に強く銃を押し付ける少年。 今度こそ観念したのか、クロッカはデバイスを手放した。 同時にバリアジャケットが分離し、下からこれまた趣味の悪い服が現れる。 「オッケー。じゃ、解放っと!」 「うわぁっ!」 少年はバリアジャケットの分離をしっかり見届けてから、クロッカの尻を思い切り蹴飛ばした。 バランスを崩し、地面につんのめるクロッカ。 だが彼への天罰はまだ終わらない。 気が付けば、彼は手に手に鈍器を持った住人達に囲まれていた。 「野郎……!」 「分かってんだろうなぁ?」 「うわわわ……た、た、た、助けてくれええぇ!!」 この後、彼は血祭りに上げられる。 因果応報、悪いことはどんな世界であっても出来ないものだ。 それはさて置き少年はというと、住人達にクロッカとは違う意味で囲まれていた。 「やるじゃねぇか、ガキ」 「へっへっへ~。ブイッ!」 街を救ったヒーローに賞賛の言葉を浴びせる住人達。 その言葉にすっかり気を良くしたのか、少年は満面の笑みで受け答えをしていた。 「ガロード・ランさんですわね?」 「あん?」 ふと、少年――ガロード・ランは、自分を呼ぶ声に気が付いた。 声がした方を見ると、メガネを掛けた女性が彼に向かって愛嬌たっぷりに微笑んでいた。 「やっぱりそうですわぁ。私はクアットロ、あなたをずっと探していたんです」 「仕事の話?」 「はい」 「だったら後にして」 並の男ならば、こんな台詞を女性に言ってもらったらドキリとするだろう。 しかしガロードの目に今映っているのは、美しい女性ではない。 クロッカが持っていたデバイスだった。 「こいつを金に変えるのが先だぁ!」 デバイスを拾うと、ガロードはあっという間に流れメカ屋の方へ走っていった。 「それにしても勿体無いですわねぇ。せっかく手に入れたデバイスを売ってしまわれるなんて」 流れメカ屋にデバイスを売ったガロードは、クアットロと名乗る女性と共に喫茶店へ入っていた。 店の窓からは、壊れた建物を修理する人々の姿が見える。 「でもないよ? 結構イイ値で売れるしね」 コーヒーカップを傾けながら、クアットロの言葉に軽く答えるガロード。 しかしクアットロは満足していないのか、眉間に小さな皺を寄せた。 「そうじゃありませんわ。あなたは魔法を熟知していらっしゃる。魔導師としても相当な使い手の筈ですわよぉ?」 クアットロの言葉に、今度はガロードが皺を寄せた。 「お断りだね! 確かに魔導師はいい商売だし、腕が良ければ管理局で雇ってもらえるけど、代わりに命も狙われるでしょ? まっ、デバイスは戦争の残した最高のお宝だからね」 そこまで言って一端話しを切り、窓の外へ視線を向ける。 重傷人を乗せた担架が、寂れた医療施設へと運ばれているところだった。 それを見て、ガロードの表情は更に厳しくなる。 「それに、魔導師同士が相手のデバイス狙って戦うっていうんだろ? ミッドはミッドで軍人紛いのことやらされるらしいし。あんな物持ってたら、命が幾つあっても足んないよ。それに………」 窓の外を眺めていたガロードの表情が更に曇る。 そして少しの間があって。 「さぁて、仕事の話しよっか?」 物憂げな表情を見せたガロードに、クアットロは疑問符を浮かべた。 しかし次の瞬間にはガロードに笑顔が戻っていた為、詮索しようとはしなかった。 何事も無かったかのようにモニターを起動させ、ガロードに一枚の写真を見せる。 「ヒュー♪」 写真を目にしたガロードは、天使の絵でも見せられたのかと思った。 それほど写真に写っている少女は美しかったのだ。 写真の少女は白い透き通った肌をしており、栗色のしなやかな長い髪を後ろで結っている。 対照的な色合いだが、それが彼女の整った顔立ちを美しく魅せていた。 顔に表情は無かったが、吊り気味の目が少女の清楚なイメージをより一層引き立たせている。 ガロードの今の状況は、俗に言う、一目惚れだった。 写真に見入るガロードを横目に、クアットロは仕事の説明を始めた。 「詳しい理由は言いません。聞かれても言えないですけど。この少女、ティファ・アディールを助け出して欲しいのですわぁ」 「助け出す……?」 写真から目を離したガロードが、クアットロに注目する。 クアットロは小さく肯くと、鋭い目を光らせながら事の次第を説明し始めた。 「彼女は……バルチャーに捕らわれてしまったのですわ」 満月の下、整備のために森に鎮座する一隻の白い船があった。 時空管理局本局次元航行部隊所属、XV級大型次元航行船・『フリーデン』である。 主にロストロギアの探索やアフターウォー関連の事件を担当し、通常時は第15管理世界の管理などを業務とする船だ。 今回も時空管理局第15管理世界支部局の査察を終え、本局へ帰還しようとしていたところだった。 査察の他に、一つの非公式な任務を終えて。 「ふぅ……」 フリーデンの艦長室で、艦長のジャミル・ニート提督は小さく溜め息をついた。 余程疲れているのか、サングラス越しにもその疲労の度合いが伺える。 シートに身を預け、そのまま仮眠を取ろうと目を瞑った。 その時、扉が二、三度ノックされ、彼の眠りを妨げた。 「……どうぞ」 シートに腰掛け直し、扉の向こうの相手に入室を促す。 「失礼します」という声と共に扉が開き、管理局の制服を着た女性が2人入ってきた。 片方は焦茶色のショートがよく似合う穏やかそうな女性。 もう片方は吊り目とポニーテールが印象的な女性だった。 「お休みのお邪魔でしたか?」 「いや、大丈夫だ……今回は忙しいところをわざわざ同行してもらって済まなかったな。礼を言わせてもらおう、はやて二等陸佐。そしてシグナム二等空尉」 はやてと呼ばれた穏やかな印象の女性は、手を振りを加えてそれに答える。 「そんな、私等も前から一度来たいと思うとったんで、ちょうどよかったです。今までは規制やらなんやらでなかなか来れへんかったんで」 「それは『夜天の主』として、かな?」 「まぁ、そんなとこです」 ジャミルの口から『夜天の主』という言葉が出たとき、シグナムと呼ばれた女性の眉が少しだけ吊り上がった。 しかし悪気がないと悟ると、直ぐに表情を元に戻す。 どうやらこの言葉を聞くと、体が無意識に反応してしまうようだ。 守護騎士の性、というものだろう。 対するジャミルはさして気にした様子もなく、はやてとの会話を続けた。 「それで、用は何だ?」 「あ、せやせや。今回は私の協力依頼を受けてくれて、ホンマありがとうございます」 「いや、カリムからも協力するよう頼まれていた。それに、私も君には依頼を請けてもらっている。持ちつ持たれつというやつだ」 「流石ジャミル提督、話の分かるお人や」 ジャミルの返答に満足げに微笑むはやて。 はやてがジャミルにした依頼とは、ジャミルを含むフリーデンクルーの新設課への協力。 それに伴う船艦フリーデンの貸出許可だった。 そもそも古代遺物管理部に所属するはやては、ロストロギア探索を業務とするフリーデンクルーと仕事を共にする事が多かった。 その為ジャミルとは繋がりがあり、今回の協力依頼に踏み切った訳だ。 しかしタダでと言うわけにはいかず、ジャミルからもはやてに一つの依頼を出していた。 依頼と言うのは、ジャミルが長年探し続けている『ある物』への捜査協力だった。 本人曰わく、『現在存在しているかどうかも判明しておらず、見つけたとしても保護出来るか分からない』らしい。 今回の同行も協力の一つで、やっと見つかった『ある物』の護衛の為だった。 それが何なのか、はやて達は知らされていないが。 「ジャミル提督、一つよろしいでしょうか?」 「なんだ?」 はやてが粗方用事を伝えた後、今まで黙っていたシグナムが口を開いた。 因みに、今回の査察には八神家一同が参加している。 彼らのフリーデンクルーとの仕事は初めてであり、フリーデン搭乗時が初対面であった。 しかし、守護騎士達はジャミルの顔を見たときから、何か違和感を感じ続けていた。 「前に……お会いしたことがありませんでしたか?」 守護騎士が感じた違和感とは、既視感。 初めての筈なのに、前に会っている様に感じるというものだ。 この時、サングラスに隠れていた為シグナムは気付かなかったが、ジャミルの瞳には動揺の色が見え隠れしていた。 「なんやシグナム。ジャミル提督に逆ナンか?」 ぶち壊しである。 主にシリアスな雰囲気が。 流石のジャミルも椅子からずり落ちそうになった。 言葉の爆弾を投下した本人は、ニヤニヤと意地の悪い笑みでその顔を湛えている。 シグナムは必死ではやての言葉を否定しているが、意地悪い笑みが消える事はなかった。 その隙にジャミルは冷静さを取り戻し、サングラスを掛け直す。 「初めてで間違いない、安心してくれ」 「そ、そうですか」 「失敗かぁ……残念やったな、シグナム」 「だから違います!」 まだやるのか。 ジャミルは心の中で呆れ気味に呟いた。 はやてのこういったセクハラはフリーデンでも健在で、既に通信主任のトニヤ・マームと副官のサラ・タイレルが被害に遭っている。 蛇足だが、はやてによると二人とも見事に成長しているらしい。 「……コホン。主はやて、そろそろヴィータ達が待ちわびている頃かと」 「あぁ、そやね。それじゃあ、私等はこのへんで」 「ああ。他の騎士達にも宜しく言っておいてくれ」 「伝えておきます」 二人はジャミルに軽く会釈し、艦長室から去っていた。 「………ふぅ」 先程よりも大きな溜め息をつき、ジャミルは背もたれに寄りかかった。 何故か疲れが更に溜まった気がするが、気のせいだろうと思い直す。 そして瞼をゆっくりと降ろし、今度こそ仮眠に入った。 ふと浮かんだシグナムの先程の問いに、正しい答えを述べてから。 「……はやて二等陸佐が主人の君に会うのは、だがな」 「あ、そや」 艦長室を出て直ぐ、はやてはもう一つ尋ねようと思っていた事があったのを思い出した。 「どうかされましたか?」 「さっき支部局で女の子を船に乗せてたやろ? あの子は何なんか聞くの忘れてもうた」 「ああ……確か、アフターウォーでも有数な企業の研究所から保護したらしいです。人体実験に利用されていたとか……」 「……最近多いな、そういうん」 「そうですね……」 現在明るみになり始めた命への冒涜行為を思い出し、二人は沈んだ表情のまま自室へ続く廊下を進んだ。 静かになった廊下に館内放送が響き、出航時刻まであと10分であることを告げた。 時は遡り、ジャミルがはやてと会談していた頃。 フリーデン艦内を彷徨いている一つの人影があった。 管理局の制服も着ておらず、本局の船艦に乗るには全くそぐわない風貌。 人影の正体は、クアットロの依頼を請けたガロードであった。 フリーデンを整備する船員達の目を盗み、非常口から侵入してきたのだ。 「へへっ、ちょろいもんだぜ。こんな簡単に侵入出来ちゃうなんてさ。……にしても、これ本当にただのバルチャー艦? 外装はともかく、中は新型その物じゃん」 ガロードの疑問は尤もだった。 大体のバルチャー艦は、たくさんの船員を乗せて航行を繰り返している。 そのうちに船内外の至る所が汚れ傷つき、年代を感じさせる物になっていくのだ。 しかしこのバルチャー艦の船内は年代など全く感じさせず、アフターウォーには不似合いな清潔感さえ漂っている。 艦内の至る所に最新の設備が見受けられ、とても一塊のバルチャーの所有物とは思えなかった。 「ま、それだけ儲けてるって事かな」 だが、残念ながら(あるいは幸運にも)ガロードは思慮深い性格ではなかった。 自分が乗っている船が時空管理局の物とも知らず、船内探索を続行した。 「ん?」 早速先へ進もうとしたガロードだったが、左手にある部屋の前で立ち止まった。 プレートにはミッドチルダ語で『保管室』と書かれている。 その時、ガロードの野生の勘が宝の臭いを嗅ぎ付けた。 「……へへへっ。こんなに儲けてるバルチャーの船だもんね、御零れの一つも頂かないと」 善は急げとばかりに意気込むガロード。 ジャケットのポケットから自前の怪しげな装置を取り出すと、それを扉にくっつける。 すると装置が起動し、今まで厳重にされていた扉のロックがあっという間に解除された。 「よしっ!」 装置を仕舞い、すぐさま部屋の中へ入る。 保管室にはクロッカが持っていた物と同型のデバイスがズラリと並び、思わず舌なめずりしてしまう様な光景が広がっていた。 こんなお宝がどれでも選り取り見取り……というのは一瞬の儚い夢だった。 デバイスの一つ一つに持ち出せないようロックが掛かっており、無理に取り出せないようになっていた。 「ちぇ、やっぱり泥棒対策は万全か……ん?」 落胆しながら部屋を出ようとした時、ガロードは部屋の中心にある装置の上に何かが乗っている事に気がついた。 近づいて見てみると、それはガロードの掌より二回り程小さいデバイスだった。 恐らくこれは待機モードなのだろう。 『X』を象った銀色に輝く反射板の様な形をしており、裏には小さな文字で『GUNDAM X』と刻まれている。 幸い装置は起動しておらず、このデバイスだけが置き去りにされていた。 「おおっ! なんだか知らないけどラッキー! 有り難く頂戴するよっと」 デバイスを素早くポケットに忍ばせ、意気揚々と部屋を出るガロード。 その時、廊下に放送が響いた。 『発進まであと10分です。総員、至急持ち場に就いてください』 「まぢぃな……早くしないと……」 寄り道した事を少しだけ後悔しながら、ガロードは走り出した。 ―……ラ、ララ…ララ……― 「はっ……!」 しかし、またすぐに足を止めた。 どこからか透き通った美しい歌声が聞こえてきたのだ。 歌声に導かれるように歩みを進めると、一つの部屋に辿り着いた。 声は確かに中から聞こえてくる。 ガロードは意を決し、扉を開けた。 扉の先で、天使が歌っていた。 写真よりも美しい少女――ティファ・アディールの容姿に、ガロードは思わず目を奪われた。 月光を浴びて歌う彼女の神々しい美しさを前に、見とれる事しか出来なかったのだ。 「………」 ふと、ティファが歌うのを止めた。 ガロードの方を向き、二人の視線が重なる。 正面からみたティファの顔に、ガロードはまたも胸が鳴った。 「あ、いやー……あっ、おっ、俺ー……え、そのー……」 いざ何かを言おうとするガロードだったが、なかなか言葉が出て来ない。 そうこうしている内に、彼を怪しんだティファは少しだけ身を引いた……ようにガロードには見えた。 「ちっ! 違うんだ!! ……って、何が違うんだぁ? あ、あれ!? お、俺、何言ってんだ!?」 喋る度に頭の中が混乱するガロード。 今の彼は底なし沼にはまって沈んでいくような気分だった。それでもティファは何も言わず、ガロードの顔をじっと見つめ続けている。 「ああっ、あのっ、えっ……だから………そうっ! 俺、助けに来たんだ!!」 ガロードは漸く底なし沼から這い上がり、なんとかそれだけを言うことが出来た。 心臓は未だに早鐘を打っているが、混乱は少しだけ収まっている。 「本当に、助けに来たんだ」 今度は力を入れ、言葉をしっかりと口にする。 ティファに伝わるようはっきりと。 ティファもそれが分かっているのか、心無し表情が柔らかくなったようだ。 そして、堅く閉じられていた口を開く。 「……待って」 「えっ?」 「待って、いました」 「……うん!」 ガロードはただ一言だけ。 ティファから初めて掛けられた言葉に、大きく頷いた。 数分後。 発進予定時刻を迎えたフリーデンクルーは持ち場に就き、ジャミルもブリッジへ上がって来ていた。 横には是非ブリッジを見学したいと、はやてとリインフォースⅡの姿もある。 「メインエンジン起動! フリーデン、発進します!」 「待って! 非常用の転送システム、作動しています」 「なに? 転送先は?」 「モニターに表示します」 サラがキーボードを叩くと、メインモニターに映像が映し出された。 一台のバギーに一組の少年少女が乗っており、森へ向かって疾走している。 バギーの搭乗者が拡大された時、ジャミルの表情が変わった。 「あれは……!」 「あの子、確か支部局で乗せてた……」 はやては記憶の片隅に留めておいた映像を思いだそうとした。 が、その時船が大きく揺れ、またも映像は記憶の片隅に追いやられた。 「きゃああぁ!?」 「な、なんや!?」 「8時の方向から魔力反応! 魔導師4! バルチャー艦1!」 「くっ……! フリーデン、急速発進!」 魔導師の攻撃を避ける為、ジャミルはフリーデンを発進させる。 その間にも砲撃は止むことなくフリーデンに降り注いだ。 「バルチャー同士の抗争? ま、好都合だけどね。しっかり掴まってろよ!」 魔導師に攻撃されているフリーデンを尻目に、ガロードはバギーのアクセルを強く踏み込んだ。 そのまま森の中を走っていると、少しだけ開けた場所に出た。 ガロードがクアットロと待ち合わせをした場所である。 既に一台のトラックが止まっており、トラックの前にはクアットロが立っていた。 「流石ですわねぇ、時間ピッタリですわぁ」 「ま、仕事だからね。さっ、ティファ」 バギーから降り、ティファを降ろそうとガロードは手を差し伸べる。 「あ……ああ………」 しかしティファはクアットロを見た途端、怯えるように体を震わせた。 「ティファ?」 「さぁ、ティファ」 クアットロは痺れを切らしたのか、一歩ずつティファに近付いて行く。 彼女の表情は笑顔だが、心の底では怯えるティファを見て楽しんでいた。 「ティファ、早く」 「い、嫌……」 「あなたの居場所はこちらですわよぉ?」 「嫌ああぁぁぁ!!」 「うふふ……」 あからさまに拒絶するティファを見て、クアットロは思わず腹黒い笑みを浮かべた。 それは確かに笑顔だった。 しかし、その顔からは凍てつくような冷たさしか感じない。 アフターウォーで生きてきたガロードが、この『危険な人間のサイン』を見逃す筈がなかった。 「やっぱりこの話無かった事で!」 すぐさまバギーに飛び乗り、全速力でクアットロを横切る。 夜の森と言うこともあってか、ガロード達の乗るバギーはすぐに見えなくなった。 しかし二人を逃がしたというのに、クアットロの顔にはまだ冷たい笑みが貼り付いていた。 「逃がしませんわ」 ぼそりと呟き、二人が逃げていった方向を指差す。 するとクアットロの後ろに止まっていたトラックからカプセル型のメカが飛び出し、飛行しながら二人を追った。 そうとは知らないガロードは早々に森を抜け、視界の利く荒野を走っていた。 雲のせいで月は隠れているが、バギーのライトで充実走行できる明るさだ。 「これでいいんだな、ティファ!?」 ティファは少し頷いただけだったが、ガロードにはそれで充分だった。 「まっ、しゃーねーか! 後はなるように……うわぁっ!!」 突然バギーが大きく揺れた。 バギーがたった今通った所は地面が抉られ、煙が立ち上っている。 追っ手の魔導師が来たのかと思い、ガロードは後ろを振り返った。 だか、煙の中から出てきた物体は、魔導師とは程遠い姿をしていた。 「な、なんだありゃ!?」 二人を追ってきたのはカプセル型のロボットだった。 センサーと思わしき黄色い部分が不気味に光り、そこから魔力弾を連射している。 しかも数は一機だけではなく、更に後ろに二機がついていた。 このロボットは管理局が『ガジェットドローンⅠ型』と呼んでいる個体なのだが、ガロードがそんな事を知る筈もなかった。 「げぇっ! これってかなりヤバイって感じぃ!?」 ガロードはアクセルを再び全開にし、バギーを全速力で走らせた。 それでもガジェットとの距離は全く開くことはなく、攻撃の手が緩むこともなかった。 終わりの見えないデッドヒートを続けているうちに、無数の魔力弾の一発がバギーに迫った。 交わそうとガロードがハンドルを切ろうとする。 その時ティファが思いもよらないことを口にした。 「このまままっすぐ」 「えぇっ!?」 「まっすぐ!」 「んなこと言ったってぇ! うおぁっ!?」 渋るガロードを押しのけ、ティファはハンドルを握り締めた。 ついに魔力弾が頭上にまで迫る。 しかし、魔力弾は軌道から外れ、バギーの左手に着弾した。 「逸れた!?」 確実にこちらに来る弾がティファの言う通り逸れた事に、ガロードは驚きを隠せなかった。 しかし自分達の置かれている状況をすぐ思い出し、ティファからハンドルを取り返す。 疑問を思い過ごしだと整理し、逃げることのみに専念した。 だが、その後も不思議な出来事は続いた。 ティファが右と言えば左に魔力弾が着弾し、左と言えば右に魔力弾は墜ちるのだ。 一度目ならば偶然で片付けられるだろう。 だが二度三度と続けば、それが偶然ではないとガロードにも理解できた。 (すげぇ……。いったいどうなってるんだ? ……そっか! もしかすっと、みんなこの力が狙いで……) そこまでガロードの考えが至った時、バギーの目と鼻の先にガジェットが現れた。 如何にティファの力が強力でも、浮遊するガジェットとバギーの性能差を埋めることは出来なかったのだ。 「うわああぁっ!!」 避けようとハンドルを切るが時既に遅し。 バギーはガジェットに激突し、二人は地面に投げ出された。 幸い二人に大した怪我はなかったが、バギーは大破し使い物にならなくなっていた。 「くっ……ううぅ……」 投げ出された衝撃で痛む体に鞭を打ち、ガロードは立ち上がる。 周りを見回すと、ティファがすぐ近くに倒れていた。 「ティファ!? ティファ!!」 駆け寄って体を揺するが返事はない。 一瞬最悪な場面が脳裏を掠めるが、息は微かにしていた。 どうやら頭を軽くぶつけてしまったらしい。 安堵の表情を浮かべるガロードだったが、三体のガジェットはすぐ後ろにまで迫っていた。 バギーが激突した一体は、ボディが凹んだ程度で未だ機能している。 ガロードはティファを抱えると、近くにあった大岩の後ろに隠れた。 頭が良くないのか、ガジェット達は二人が隠れた岩に何発も魔力弾を放つ。 「畜生っ! あんなのどうやって倒せば……そうだ!」 ガロードはポケットに手を突っ込んだ。 中を漁り、そして目当ての物を掴み出す。 取り出したのは、フリーデンからせしめた銀色のデバイスだった。 「こいつで……って、あ、あれ?」 早速起動させようとデバイスを弄るが、全く反応がない。 「なんだこれ!? 壊れてんのか!? 動けよ! おい!」 デバイスを叩くが、反応する気配すら見られない。 後ろではガジェットの攻撃が激しさを増し、遂に二人を守っていた大岩に亀裂が走った。 「クソっ! 俺はティファを守るんだ!! だから動けよ! この野郎っ!!!」 自棄糞になり、ガロードはデバイスを地面に思い切り叩きつけた。 カツンと音を立て転がるデバイス。 その時、ガロードの願いが神に通じた。 『.....Standby, ready』 「やった!!」 今の衝撃で魔力回路が復活し、機能停止していたデバイスが蘇ったのだ。 奇跡としか言いようがなかった。 これからは神様を信じようと心に誓い、ガロードはデバイスを拾い上げ高らかに叫ぶ。 自分の運命を変えるデバイスの名を。 「ガンダムX! 起動!!」 『Yes, master! GX-9900 GUNDAM X, Drive ignition!』 響くデバイスの起動音。 同時にガロードの周りから青白い光の柱がそびえ立った。 光の柱は空まで伸び、雲を突き破って月を現す。 ガジェットも異変に気がつき光の柱へ近付くいて行く。 だが次の瞬間、柱が弾け、ガジェット達は吹き飛ばされた。 そして柱があった場所、その中心には様変わりしたガロードの姿があった。 体は白を基調としたバリアジャケットに包まれ、カラーリングはかのエースオブエース・高町なのはを連想させる。 背中にはガロードの身長程もある巨大な砲身を背負い、手には青い操縦桿が握られていた。 魔導師ガロード・ラン、ここに誕生である。 『よろしくお願いします、マスター・ガロード』 「ああ! さぁて、今までよくも追い掛け回してくれたな?」 ガロードはGXを握り締め、三体のガジェットを睨み付けた。 対するガジェットはガロードの変身など気にも止めず、三体一気に襲いかかる。 「行くぜぇ!!」 『Slash form』 GXが変形し膨大な魔力が歪な刃を形成する。 ガロードは剣となったGXを構え、ガジェットに向かって駆けた。 それを認めたガジェット達は魔力弾を放ちガロードを牽制する。 しかし元から身軽なガロードは易々と魔力弾の間を縫い、一気に間合いを詰める。 そして一体のガジェットの懐へと入り込んだ。 「でえぇりゃあ!!」 一閃。 ガロード渾身の大振りがガジェットを斬り裂いた。 「もういっちょ!!」 間髪入れずに横にいたガジェットにも一閃をお見舞いする。 形は歪な刃だが、その斬れ味と破壊力は抜群だった。 ガジェット二体は真っ二つに割れ、黒煙を上げて爆発した。 「最後の一体!」 しかし最後のガジェットは形勢不利と踏んだのか、自身の周りにフィールドを張り巡らせた。 アンチマギリンクフィールド。 通称AMFと呼ばれる、魔力結合を強制的に解消する防御魔法だ。 手慣れしていない魔導師が挑むには危険すぎるフィールドであり、GXもすぐにガロードへ警告を発する。 『マスター、AMFです。ここは一旦退いて……』 「なぁ、GX」 『はい』 「歯ぁ食い縛れ!!」 『えっ?』 GXは最初、言われた意味が理解できなかった。 だが、ガロードが自分の警告を完璧に無視し、AMFに突撃して行くのを確認し、何となく理解した。 新しい主人はいきなり無茶をしようとしている。 『マスター!? 一体何を!?』 ガロードは臆することなくAMF内に入った。 GXから伸びていた魔力刃は消え、バリアジャケットの構成も危うくなる。 ガジェットはアンカーケーブルを振り回し、防御が薄くなったガロードに叩き付けた。 しかし、AMF内に入ったからと言ってガロードの素早さが失われる訳ではない。 ガロードは難なくそれを交わし、持ち手だけになったGXを握り…… 「なめんじゃねえ!!!」 ガジェットのセンサー目掛け思い切り殴りつけた。 センサーは粉々に砕け、展開されていたAMFが解除される。 そしてセンサーにGXが食い込んだまま魔力刃が復活。 そのままガジェットの体を貫いた。 「おりゃあああああああ!!」 GXを握り思い切り振り下ろす。 ガジェットはセンサー部から両断され、爆散した。 「はぁ、はぁ、はぁ……や、やったか」 燃え盛るガジェットの残骸を眺めながら、ガロードはその場に膝を突いた。 張り詰めていた緊張感が解けたのか、足から力が抜けてしまったようだ。 危険が去ったのを察知し、GXもGコントローラー型デバイスフォームへと戻る。 『大丈夫ですか、マスター?』 「あ、ああ……それよりティファは?」 膝を地に着いたままガロードは辺りを見回す。 ティファはすぐに見つかった。 先程隠れていた岩陰に立っており、どこか遠くを見つめていた。 「ティファ! 良かった、気が付いたんだな!」 ティファが気がついた嬉しさに疲れを忘れ、ガロードは彼女に駆け寄った。 「………………」 「……ティファ?」 しかし、ティファはガロードが近付いても何も言わず明後日の方向を見つめ続けた。 そんなティファに疑問を覚え、ガロードは彼女に声をかける。 その時、四つの人影がガロード達の目の前に現れた。 「前方に魔力反応! ミッドチルダ式の魔導師です!」 一方、バルチャーを退けたフリーデンはティファの捜索を開始していた。 そんな中ガジェットドローンの反応をキャッチし、ティファの手掛かりになるかと反応を追っていたところだった。 「嘘っ……ガジェット、全機ロスト! 恐らく今の魔導師の仕業だと思われます!」 「……そうか」 トニヤの報告にジャミルは顔を俯けた。 何故なら、立ち上った青白い光の柱に心当たりがあるからだ。 浚われたティファ、持ち去られたガンダムX。 ジャミルは既に答えを出していた。 「月は出ているか?」 「えっ?」 ブリッジにいた全員の視線が一遍にジャミルに集まる。 はやてとリインもジャミルが何を言っているのか検討がつかなかった。 それでもジャミルは聞かずにはいられなかった。 「『月は出ているか?』と聞いている」 ―PREVIEW NEXT EPISODE― ティファを守るため、ガンダムXを起動させたガロードの前に、四人の魔導師と、彼らを狙うバルチャー達が立ち塞がった。 迫り来る無数の流れ魔導師。 ついにティファは、禁断のシステムを作動させた。 第二話 「あなたに、力を…」 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/a_nanoha/pages/31.html
魔法少女リリカルなのはStrikerS 第5話 【星と雷】 キャロ「私の新しい居場所。大好きな人と、優しい人がいっぱいいる場所。 だけど、どこかでまだ迷ってる。きっと、自分のことが怖いから。 一緒に戦うパートナーと一生懸命な先輩たちと、きっと私と同じ思いを持った優しい子。 迷っていられない。決めたから。自分がこれから進む道。魔法少女リリカルなのはStrikerS…始まります」 なのは「ヴァイス君、私も出るよ。フェイト隊長と二人で空を押さえるっ!」 ヴァイス「うっす、なのはさん。お願いします」 なのは「キャロ。大丈夫、そんなに緊張しなくても。離れてても通信で繋がってる。一人じゃないから。 ピンチの時は助け合えるし、キャロの魔法は皆を守ってあげられる、優しくて強い力なんだから。…ね?」 リインフォースII「任務は二つ。ガジェットを逃走させずに全機破壊すること。 そして、レリックを安全に確保すること。ですから、スターズ分隊とライトニング分隊、 二人ずつのコンビでガジェットを破壊しながら、車両前後から中央に向かうです。 レリックはここ。7両目の重要貨物室。スターズかライトニング。 先に到達したほうがレリックを確保するですよ!」 リインフォースII「デザインと性能は、各分隊の隊長さんのを参考にしてるですよ。ちょっと癖はありますが、高性能です!」 局員「確かにすさまじい能力を持ってはいるんですが、制御がろくにできないんですよ。 竜召還だって、この子を守ろうとする竜が勝手に暴れまわるだけで。 とてもじゃないけど、まともな部隊でなんて働けませんよ。せいぜい単独で殲滅戦に放り込むぐらいしか」 フェイト「ああ、もう結構です。ありがとうございました」 局員「それじゃあ」 フェイト「いえ。この子は予定通り私が引き取ります」 キャロ「私はこれからどこへいけばいいんでしょう?」 フェイト「それは君がどこに行きたくて何をしたいかによるよ。キャロはどこに行って何をしたい?」 なのは「発生源から離れればAMFも弱くなる。使えるよ!フルパフォーマンスの魔法が!」 はやて「スターズの三人とリィンはヘリで回収してもらって、そのまま中央のラボまでレリックの護送をお願いしようかな」 リインフォースII「はいですぅ!」 グリフィス「ライトニングはどうします?」 はやて「現場待機。現地の職員に事故処理の引継ぎ」 次回予告 なのは「初出動を終えて、日々の訓練もちょっとレベルアップ」 フェイト「そして事件は少しずつ、ひそやかに、その姿を現していく」 なのは「次回魔法少女リリカルなのはStrikeS第6話」 フェイト「進展」 なのは&フェイト「Take off!」
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/1694.html
「んーっ静かでいい所だねー、空気もおいしいし。ねっ、ティア」 「観光で来てるんじゃないのよ、バカスバル」 ここまで私達を乗せてきたバスを見送りつつ、隣ではしゃぐ相棒に釘を刺す。 ―――第97管理外世界日本国M県S市杜王町 スバルの言う通り、いい町だと思う。騒がしくなく、しかし活気が無いということもない。人々は暖かく、そして平穏に暮らしている。 だからこそ、信じられなかった。この町に凶悪な違法魔導師が潜んでいるかもしれない、などということは。 なぜ私、ティアナ・ランスターとスバル・ナカジマがここにいるのか。話は一週間ほど遡る。 ジェイル・スカリエッティが引き起こした大事件、通称JS事件。 その事後処理も一段落付いたか、と思われた頃に唐突に私達は部隊長室に呼び出された。 何事かと思いつつ中に入ってみれば、そこには隊長陣三人がそろい踏みしていた。 忙しいこの三人が、特に忙しい筈のこの時期に集まっているのだ。ただ事ではないのだろう。自然と身が引き締まる。 スバルもそれを理解しているのか、いつものどこか抜けた雰囲気はなりを潜めていた。 「そんなに硬くならんでええよ。ちょっとお願いしたいことがあるだけやから」 私達の緊張を見て取ったらしい八神部隊長は、朗らかな笑みを浮かべて言った。 「お願い……ですか?」 「そや。お願いや。嫌やったら引き受けてくれんでもええ。とりあえず聞いてくれるか?」 八神部隊長の目配せを受けて、なのはさんが引き継ぐ。 「第97管理外世界……私やはやてちゃんの出身世界なんだけど、二人にはそこに向かってほしいの」 「えっと……どういうことですか?」 スバルが困惑気味に尋ねた。私も正直戸惑っている。 「うん……ちょっと困ったことになっててね……」 “ちょっと”と言うなのはさんの表情には陰りがあった。 「その世界のある町はね、昔から失踪者が多いんだ。 それだけなら管理局も動かないんだけど、ここ数年で失踪者の数が一気に増えたの。異常と言ってもいいくらいにね。 現地の人たちも必死で捜索したんだけど、手掛かり一つ見つからなかった ここで、管理局はある可能性に気付いたの。 ……もしかしたら、魔法を使う何者かがやっているのかもしれない……」 それは可能性の話だ。だけど、もしも、そうだとしたら…… 「その時はまだ可能性でしかなかったし、管理局が直接動く必要はないんじゃないかって声も多かった。 でも、もし違法魔導師が何かを行っていたんだとしたら管理局はそれを何年も見逃していたことになる。 そんな失態を認める訳にはいかないって人達が強行に調査隊を派遣したの。 だけどね……」 スバルが固唾を飲んだのが分かった。私も手に嫌な汗が滲んでいた…… 「帰ってこなかったの。一人も。通信も繋がらない。 ……たぶん、殺されたんだと思う。潜んでいた何者かに。 これにはさすがに管理局も焦って、本格的に調査団を送るって事になったんだけど……」 珍しくなのはさんが言い淀む。 「JS事件で今はどこも人手が……ね。それに加えて相手は調査隊を誰にも知られることなく始末する様な実力者。 どこの部隊もやりたがらなくてね……。巡り巡って機動六課に、ってこと。 この捜査にはフェイトちゃんが行くのがもう決まってる。 二人にはその補佐役についてほしいんだ」 なのはさんの話が終わり、今まで黙っていたフェイト隊長が口を開く。 「本当は私一人でやるつもりだったんだけど……ティアナは執務官志望なんだよね? 危険は伴うけどこの捜査はいい経験になると思うんだ。 名目上は補佐役だけど実際にはほとんど別行動になるからね。最初から一人で、っていうのも難しいだろうからスバルと二人でならどうかと思って。 もちろん無理にとは言わない。ティアナにはティアナのやり方があるだろうしね。これは夢に向かうための一つの選択肢だと思ってくれればいい。 ……どうかな?」 ―――私はそれを受け入れた。 打算が無かったと言えば嘘になる。でも、私の中には確かな怒りがあった。罪のない人々を苦しめる犯人への、怒りが。 この出来事は私のちっぽけな、これから出会うこととなる人々の揺るぎない正義と絶対に砕けない勇気、光り輝く黄金の意志に比べれば本当にちっぽけな心に、火を灯したのだ。 だから、私は今、ここ――杜王町――に居るのだ。 魔法少女リリカルなのはStrikers×ジョジョの奇妙な冒険part4 ストライカーは諦めない ―――始まります 「それで、これからどうするの?」 ……ワクワクという擬音はきっと今のスバルのためにあるんだろうな、と思わされるような目をしていた。 初めて訪れた場所だ。色々と見て回りたいのだろう。相変わらず子供っぽい相棒に思わず苦笑する。 「捜査に協力してくれてる団体が人を送ってくれるそうよ。とりあえずその人を待ちましょ」 「待つ必要はねーぜ。もう来てるからな」 ベンチに腰掛けて新聞を読んでいた男が立ち上がり、静かにそう告げた。 大きな男だった。身長だけではない、何か人間としての大きさを感じさせた。 一見すれば恐そう、ともとれそうだがその眼の奥に湛えた静かな知性がそうさせなかった。 「スピードワゴン財団の空条承太郎だ。アンタ達は時空管理局の者だな?」 TO BE CONTINUED... 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2886.html
――その男は暗闇の中で覚醒した。 随分と長く意識を失っていた気がする。 或いはたった今、この世に生れ落ちたかのような。 そう言った認識を得た直後、急速に世界が広がった。 状況を把握できた、と言い換えても良いだろう。 彼は自分が金属製のベッドに横たわっている事に気付いた。 否、ベッドではあるまい。これは――手術台だ。 「やあ、目が覚めたか」 不意にガコンと音がして、彼を灯りが照らし出した。 周囲の様子が露になる――が、彼にとっては然したる意味も無い。 たとえ真の暗闇の中であろうと、彼の"眼"は見通す事ができるからだ。 手術室。手術台。何の事は無い。見慣れた光景だ。 その入り口にたたずむ白衣の男だけが、普段とは違った存在だった。 「――"博士"ではないのか。誰だ、貴様は」 「ジェイル・スカリエッティ。或いはドクターとも呼ばれるがね」 その男、およそまともな人物でない事は一目でわかった。 眼が違うのだ。爛々と輝く金色の瞳は、それだけで男の異様さを物語る。 肉体がどうかなど知らない。その精神こそが異常。 「……何故、俺はココにいる?」 「的確な質問だ。"彼ら"はキミを使ってある作戦を行い――そして失敗した。 そして大きな損害を受けたキミを廃棄する代わりに、我々に売ったのさ」 「つまり俺は……払い下げられたのか」 彼は虚ろな声で言った。ある種の虚無感が其処にある。 「ガラクタとして、残骸として、スクラップとして」 「そう悲観する必要は無いぞ。単に彼らではキミの肉体が再生できなかった、というだけの事だ」 言われてみれば、確かにそうだ。 彼と同等の損傷を受けた仲間は、皆間違いなく死亡していたのに対し、 手術台の上に横たわっている彼の身体は、全くと言って良いほど無傷。 見慣れた黒色の戦闘服も、胸部装甲も、傷一つついていない。 となれば、頭部も同様なのだろう。 ぎこちなく腕を伸ばして顔を撫でると、硬質の感触があった。 間違いない。自分は完全に回復している。 「俺を買い取ったと言ったな。そして、修理まで行った。――――だが、何の為だ?」 「私の"上司"には色々あるようだがね。私に限って言えば、夢の為だ」 「……夢、だと?」 頷き、白衣の男は大きく両手を広げた。 まるで役者でもあるかのような大仰な仕草。 「生まれた時から持っていた夢。 刷り込まれたものかもしれないが、これは私の願いだ。 私が望む世界。 私の世界。 自由な世界。 それを襲い掛かって、奪い取る。 ――それが、私の夢だ」 世界を奪い取る。 その言葉が、電撃のように彼の脳裏を駆け抜けた。 たとえ自分が今生まれたばかりであるとしても、 たった今受けた衝撃こそが、彼にとっては何よりも大切だった。 「――――それは」 ようやく絞りだせた声は、随分と震えていた。 恐ろしいのでもない。怯えているのでもない。 それは極めて明確な一つの感情によるものだ。 彼は喜んでいた。 歓喜していた。 世界を奪うという、その『夢』に。 「?」 「世界征服、という事か」 ――これが、全ての発端だった。 魔法少女リリカルなのはNumberS 『仮面の男』 「スローターアームッ!!」 二本の足で地に立つ男目掛けて、空より飛来する刃が二つ。 戦闘機人No7。セッテの固有技能および固有装備、ブーメランブレード。 空中戦闘に特化した彼女によって、意のままに操作されるその兵器は、 古代ベルカ騎士の一撃に匹敵するという威力、速度を秘めた代物だ。 当然、まともに喰らえば只では済まず、また回避する事も難しい。 だが――……それが届くよりも先に、大地が踏み砕かれた。 ――跳躍。 一瞬にして15m。恐るべき脚力である。 回避したのみならず、その男は空中のセッテ。その間近にまで迫る。 「――ッ!」 たまらず彼女は急制動をかけ、距離を取った。無論、その間にも戦闘行動は途絶えることが無い。 投擲したブーメランブレードを呼び戻しながら、両手に更に二振りの刃を生み出す。 宙に浮いてしまえば、何の装備も有さない存在は動きようが無い。狙うならば今だ。 両手に武器を握ったセッテは、背後から男に迫る刃に加え、その二刀を投擲。 前後左右からの回避不能な同時攻撃によって、一挙に畳み掛ける。 悪くは無い。 決して、悪くは無い。 だが、それはおよそ一般的な場合にのみ言える戦術でしかない。 この男は、そのようなマニュアルの範疇に入る筈が無いのだった。 しっかりとその脚が"宙を舞うブーメラン"を踏みしめる。 「反転―――……」 どん、と鈍い音。 男が更に跳躍した事を理解した瞬間には、その一撃がセッテへと放たれていた。 「――キィイィィックッ!!」 この男を一瞬にして15mの高みにまで至らせた脚力。 其処から全力を持ってして放たれるキックの威力は、およそ10トンになるだろう。 そうなれば無論、まともに喰らえば戦闘不能となる事は間違いない。 まさに一撃必殺。 空中戦特化という事もあって、比較的防備の少ないセッテでは耐えうる事は不可能だろう。 トンと脚が触れた瞬間に、模擬戦終了を告げるブザーが鳴り響いた。 「どうですか、001」 「戦術は悪くない。が、思考外の出来事にとっさに反応できないようではな」 地に降り立った彼女に対し、同様に着地した男――001は、そう答えた。 ナンバーズは異常な存在だ。だが、それを上回るほどに異常で不気味なのが、この男だった。 身に纏っているのは黒色の戦闘服。これはさして問題は無い。 基本的にはナンバーズの其れと、男女の差こそあれど大きな違いは無いからだ。 しいて言うならば肘や膝、肩などの要所にプロテクター、そして胸部には頑丈な装甲が備わっている点くらいか。 首にマフラーを巻いているのも、気にする程の事ではない。 チンクの眼帯、ディエチのリボンや、ディードのカチューシャ、或いは他ならぬセッテのヘッドギアなど、 ナンバーズと言えども戦闘行動の支障になら無い範疇で、多少のファッションは許されている。 問題は、頭部だ。 ――仮面。 ヘルメットと呼ぶことはどう考えても不可能だった。 何故なら其処には『顔』が存在していたのだから。 緑色の目を持つ、無機質な『顔』 であるならばそれは、正しく『仮面』だった。 そんな存在がどうして正常だと言えようか。 まだしも肉体が生身であったならば、そう呼べたかもしれない。 だがセッテの視界――解析システムは、男が生身の人間では無い事を伝えている。 脳の一部を含む肉体の大半が機械に置き換わっている彼こそは、まさしく最初の戦闘機人。 およそ全ての戦闘機人の原型となったが故に"001"と呼ばれている男。 ドクタースカリエッティの旧友であり、同時にナンバーズの教官でもある男。 それが、彼だった。 空戦型であるセッテの模擬戦相手としては役者不足とも思えたが、 しかし先程の跳躍を見ればわかる通り、この男は十分以上の空戦能力を有している。 このように何の問題もなく、彼女に訓練を施すことが出来るのだ。 少なくともその点については、セッテも文句は無い。 「お前の姉からも言われなかったか?」 「はい。トーレから"機械過ぎる"と」 的確な表現だな、と呟いて001は笑った。 「我々は改造人間――もとい、戦闘機人だ。兵器であるが、同時に兵士でもある」 「001。言っている意味がわかりかねます」 「つまり、人間なんだよ、俺たちは。ここに詰まっているのは蛋白質の塊か?」 そう言ってコツコツと001はヘルメットを叩いた。 緑色の複眼が煌き、セッテは奇妙な居心地の悪さを覚える。 文句があるとすれば、これだ。 セッテは彼が苦手だった。 こんな感情は、完璧な兵器であろうとする彼女にとって有り得ない事なのだが、 とにかく彼女にとって001は苦手と判断せざるをえない対象だった。 理由はと問われても、セッテには判断できない。 結局、プログラムに発生したバグ、或いは欠陥と結論せざるを得なかった。 どちらにせよ留意すべき事態であるのは間違いあるまい。 こうして幾度か1号に戦闘訓練を受けるのも、そのバグを克服するのが目的なのだが。 どうにも、この複眼に見つめられるのだけは、慣れない。 思考の中へと陥っていたセッテを現実に引き戻したのは、1号の次なる言葉だった。 「ただの兵器では、奴らに勝てん」 「――……奴ら?」 「圧倒的な性能差。絶望的に不利な戦況。 そういった物を、いとも簡単に覆してのける存在だ」 「……わかりかねます。 性能差や戦況の悪化。別々に発生したのでしたら覆す事も可能かと思いますが、 両者が同時に発生したのであれば、それを打開するのは不可能かと」 最もな意見である。 およそ魔法に関して言えば持って生まれた素質がほぼ全てであるし、 彼女達の持つIS、先天固有技能なども、その典型的な例だと言える。 だが、それに対して001は皮肉げな呟きでもって答えた。 「それが、可能なんだよ。――――人間という奴には」 ――人間には、それが可能。 不可解な理論に彼女が頭を悩ませていると、001は笑いながら手を振った。 「まあ良い。いずれお前も逢うだろうし、今考えても仕方ない事だ。 それより、集団洗浄の時間じゃないのか? お前も行って来たらどうだ」 「いえ、可能ならばもう一戦お願いしたいのですが」 「悪いが、俺はドクターに逢いに行かなければならない。 良いから行って来い。訓練、訓練、では機械そのものだ」 「はい、ではそのように」 *********************************** ジェイル・スカリエッティの本拠地には、大規模な集団洗浄場が存在する。 より一般的な表現をするならば、大浴場と言った所か。 12人のナンバーズ姉妹全員で入浴してもまだ余裕のある規模の浴場では、 今日も今日とて幾人かのメンバーが、集団洗浄を行っていた。 話題と言えばまあ、いつも通りだ。 ノーヴェやウェンディによるバカ騒ぎから始まり、 オットーの性別について、或いはクアットロについての軽口。 この場にはいないドゥーエに対してのあれこれやらも加わり、二転三転した後、 研究施設における唯一の男性型戦闘機人――つまり001の事になる。 「あー……ダメだ。やっぱアイツは好きになれない」 「そうッスねー。あのヘルメット、髑髏みたいで、ちょっと怖いッス」 「そこじゃねぇよ。何考えてるかわかんねぇところが苦手なんだ」 浴槽にしっかり肩まで使ったノーヴェと、のんびり浮かんでいるウェンディの会話に、 さもありなんと他のナンバーズ一同、揃って頷く。 性別不明なオットー以上に謎めいているのが、あの仮面の男、001だからだ。 戦闘機人の試作品――タイプゼロよりも前に存在していたとの触れ込みであり、 ドクターとの付き合いも長く、ナンバーズ達も生まれた当初から関わっている。 更に言えばセッテならずとも訓練を指導してもらった経験は全員にある。 そしてその戦闘能力は、魔術的要素が一切無いとはいえ、特筆すべきだ。 だが――果たして"姉妹"の中で、誰か一人でも彼を好ましいと感じる者はいるだろうか? 嫌っている者はいないだろう。だが、好きにはなれなかった。 「僕も彼の事は好きになれない。――何故、顔を隠してるんだ」 「あたしも。001さんの顔、見たこと無いもの。ディードは?」 「特段、好ましいとも思ってはいませんが」 「でもさー。私、前にドクターから聞いたんだけど。 私たちの持ってるIS――先天固有技能ってあるじゃない?」 「ああ、あたしのエアライナーとか、セインのディープダイバーとかだろ?」 「お姉ちゃんのこと呼び捨てにすんな。 ともかく、戦闘機人にそれぞれ固有能力持たせようって、001の発案だって聞いたよ?」 「うわ、マジかよそれ」 「あ、それとあたしはあの仮面には爆弾が装備されてるって聞いたッス! 外すと爆発するって」 「……誰から聞いた、それ」 「クア姉から」 「そりゃ嘘だよ、ウェンディ」 満場一致でそれは嘘だ、という結論に達する姉妹たち。 しばらくしてセッテが集団洗浄に参加すると、すかさず質問攻めが始まる。 加えてウェンディによる胸部接触も行われ、解放されたディードが胸を撫で下ろす一面もあった。 つまり何が言いたいのかと言えば、単純な一言である。 ナンバーズは今日も平和だった。 ************************************** 「――――終わったぞ」 研究室。 不意に聞えた静かな声に、001の意識は緩やかに覚醒した。 またしても手術台の上。だが、特に慌てることも無い。 日に一度スカリエッティの検査を受けるのが、彼の日課だからだ。 「どんな按配だ?」 「キミのお陰で彼女達の製作も、訓練も、実に滞りなく進行している。 いや、むしろ当初の予定をはるかに上回る出来栄えだ。 だからこそ、私も努力はしているのだが――……」 「難しい、か」 「……ああ、すまないね」 ドクター・スカリエッティにしては珍しく、沈鬱そうな表情を見せた。 だが、それに対して001は特に気にした様子も無い。 元より仕方の無い話なのだ。 「拒絶反応――リジェクション、か。 最初から機械との適合を考えて生み出されたナンバーズならばともかく……。 元々がただの人間だったキミでは、機械との融合は負担が大きすぎるのだよ」 「理解している。ドクターが努力をしてくれたことも。不満は無い」 マフラーを結び直しながら001は言う。 言葉に他意はなく、まったくの本心であった。 結局のところ薬で無理やり抑え込むだけであっても、大したものだ。 そういった事すら以前は不可能だったのだから。 「こんなにも人間らしい待遇を受けたのは、久しぶりなんだ。何せ――」 その声は何処か笑っていた。 「改造人間という名の『兵器』だからな、俺は」 「戦闘機人という名の『兵士』なのだよ、今は」 ドクターの声は、何処か疲れていた。 「私にとって、生命というのは素晴らしいものだ。 その可能性を探りたいし、尊い存在だとも思う。 人は『生命を弄ぶ』などとも言うがね。だが、しかし君は――……」 「構わない。判りきっている事だ」 頷きを一つ返し、手術台の上に腰を下ろす。 伸ばした右手が手繰り寄せるのは、スカリエッティの用意した作戦計画書だった。 複製が困難であるという意味において、紙と言う情報媒体は比較的優秀なのだ。 慣れた手付きでページを繰る001の姿に、スカリエッティは苦笑を浮かべる。 「相変わらず君は、寝ても覚めても征服、征服、だな」 「当然だろう。この"組織"で戦闘経験者は俺だけだ。それに――」 「それに?」 「これは俺の『夢』だからな」 これにはスカリエッティも笑うしかない。 一番の同士。一番の友人。本当に頼りになるが、頼り切ってしまいたいわけじゃない。 と、不意に001の手が止まる。 「……スカリエッティ。ひとつ聞いても良いか?」 「ああ。一つといわず、幾つでも」 「この――タイプ・ゼロファースト、セカンドという奴だ」 001が指差した先には、カーボン複写された設計図が添付されていた。 スカリエッティの計画書において「可能であれば捕獲」と記されたそれは、 図案の人物が子供であるとはいえ、その内部構造は間違いなく改造人間――戦闘機人である。 「ああ、文字通りの存在だよ。戦闘機人のゼロ番機――もっとも、君よりは後発だが。 『誰か』が作り、奪取され、現在は管理局に所属している。私の知的好奇心から、調べてみたくてね」 「――……特徴は?」 「ファーストがテクニックを。セカンドはパワーを重要視している――らしい」 「……………」 「興味があるのかね?」 いや、と首を左右に振った001は手術台から降り、資料を手にしたまま歩き出す。 「技と、力……か」 退室する間際、ひどく懐かしげに彼が呟いた言葉の意味は、スカリエッティにはわからなかったが。 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanoha_data/pages/27.html
チームナカジマと保護者たち 高町ヴィヴィオ アインハルト・ストラトス 高町なのは フェイト・T・ハラオウン コロナ・ティミル リオ・ウェズリー ノーヴェ・ナカジマ ルーテシア・アルピーノ 元機動六課フォワード スバル・ナカジマ ティアナ・ランスター エリオ・モンディアル キャロ・ル・ルシエ インターミドル参加者 ミウラ・リナルディ シャンテ・アビニオン ハリー・トライベッカ ヴィクトーリア・ダールグリュン ミカヤ・シェベル エルス・タスミン ファビア・クロゼルグ ジークリンデ・エレミア 八神家、ナカジマ家、聖王教会他一般 八神はやて シャマル アギト ギンガ・ナカジマ ゲンヤ・ナカジマ チンク・ナカジマ ディエチ・ナカジマ ウェンディ・ナカジマ カリム・グラシア シャッハ・ヌエラ セイン オットー ディード メガーヌ・アルピーノ シャリオ・フィニーノ 古代ベルカの王 オリヴィエ・ゼーゲブレヒト クラウス・イングヴァルト 高町ヴィヴィオ(一人称:わたし、ヴィヴィオ) アインハルト:アインハルトさん なのは:なのはママ、ママ フェイト:フェイトママ コロナ:コロナ リオ:リオ ノーヴェ:ノーヴェ スバル:スバルさん ティアナ:ティアナさん ミウラ:ミウラさん シャンテ:シャンテ ハリー:ハリー選手 ザフィーラ:ザフィーラ チンク:チンクさん セイン:セイン オットー:オットー ディード:ディード ルーテシア:ルールー クイント:クイントさん イクス:イクス クリス:クリス レイジングハート:レイジングハート バルディッシュ:バルディッシュ アインハルト・ストラトス(一人称:私) ヴィヴィオ:ヴィヴィオさん コロナ:コロナさん リオ:リオさん ノーヴェ:ノーヴェさん ミカヤ:ミカヤさん クラウス:クラウス オリヴィエ:オリヴィエ殿下 ティオ:ティオ 高町なのは(一人称:わたし) ヴィヴィオ:ヴィヴィオ アインハルト:アインハルトちゃん フェイト:フェイトちゃん コロナ:コロナちゃん リオ:リオちゃん ノーヴェ:ノーヴェ ティアナ:ティアナ ルーテシア:ルーテシア メガーヌ:メガーヌさん クリス:クリス フェイト・T・ハラオウン(一人称:私) ヴィヴィオ:ヴィヴィオ アインハルト:アインハルト なのは:なのは ノーヴェ:ノーヴェ エリオ:エリオ キャロ:キャロ シャーリー:シャーリー マリー:マリーさん クリス:クリス コロナ・ティミル(一人称:私) ヴィヴィオ:ヴィヴィオ アインハルト:アインハルトさん リオ:リオ ノーヴェ:ノーヴェさん ルーテシア:ルーちゃん ハリー:番長 ウェンディ:ウェンディさん はやて:八神司令 ブランゼル:ブランゼル リオ・ウェズリー(一人称:あたし) ヴィヴィオ:ヴィヴィオ アインハルト:アインハルトさん コロナ:コロナ スバル:スバルさん メガーヌ:メガーヌさん ソルフェージュ:ソル ノーヴェ・ナカジマ(一人称:あたし) ヴィヴィオ:ヴィヴィオ アインハルト:アインハルト なのは:なのはさん フェイト:フェイトさん コロナ:コロナ リオ:リオ スバル:スバル ティアナ:ティアナ ミウラ:ミウラ ミカヤ:ミカヤちゃん ギンガ:ギンガ ザフィーラ:旦那 ゲンヤ:おとーさん ルーテシア:お嬢 メガーヌ:メガーヌさん マリー:マリーさん ジェットエッジ:ジェットエッジ、ジェット ルーテシア・アルピーノ(一人称:わたし) ヴィヴィオ:ヴィヴィオ アインハルト:アインハルト コロナ:コロナ リオ:リオ シャンテ:シャンテ はやて:八神司令 アギト:アギト シャッハ:シスターシャッハ セイン:セイン ガリュー:ガリュー メガーヌ:ママ ブランゼル:ブランゼル スバル・ナカジマ(一人称:あたし) ヴィヴィオ:ヴィヴィオ アインハルト:アインハルト ノーヴェ:ノーヴェ ティアナ:ティア エリオ:エリオ キャロ:キャロ セイン:セイン ヴォルツ:司令 イクス:イクス ティアナ・ランスター(一人称:あたし) ヴィヴィオ:ヴィヴィオ アインハルト:アインハルト なのは:なのはさん リオ:リオ ノーヴェ:ノーヴェ スバル:スバル キャロ:キャロ エリオ・モンディアル(一人称:僕) ヴィヴィオ:ヴィヴィオ フェイト:フェイトさん ストラーダ:ストラーダ キャロ・ル・ルシエ(一人称:わたし) ヴィヴィオ:ヴィヴィオ アインハルト:アインハルト フェイト:フェイトさん リオ:リオちゃん セイン:セイン ルーテシア:ルーちゃん フリード:フリード ミウラ・リナルディ(一人称:ボク) ヴィヴィオ:ヴィヴィオさん はやて:はやてさん シグナム:シグナムさん ヴィータ:ヴィータさん シャマル:シャマル先生 ザフィーラ:師匠 リイン:リインさん シャンテ・アビニオン ヴィヴィオ:陛下 ルーテシア:ルルっち シャッハ:シスターシャッハ ハリー・トライベッカ(一人称:オレ) ヴィクトーリア:ヘンテコお嬢様 エルス:アホ、アホのエルス ジークリンデ:ジーク ヴィクトーリア・ダールグリュン(一人称:わたくし) エドガー:エドガー ハリー:不良娘、ポンコツ不良娘 ジークリンデ:ジーク ミカヤ・シェベル(一人称:私) ノーヴェ:ナカジマちゃん エルス・タスミン(一人称:私) ジークリンデ:チャンピオン ファビア・クロゼルグ(一人称:ファビア) ジークリンデ・エレミア(一人称:私(ウチ)) ハリー:番長 ヴィクトーリア:ヴィクター 八神はやて(一人称:私) ヴィヴィオ:ヴィヴィオ アインハルト:アインハルト シグナム:シグナム ヴィータ:ヴィータ ザフィーラ:ザフィーラ リイン:リイン アギト:アギト スバル:スバル ミウラ:ミウラ ルーテシア:ルール クリス:クリス シャマル ザフィーラ:ザフィーラ ザフィーラ} ヴィヴィオ:ヴィヴィオ ノーヴェ:ノーヴェ ミウラ:ミウラ アギト ルーテシア:ルール ギンガ・ナカジマ(一人称:私) ウェンディ:ウェンディ ゲンヤ・ナカジマ(一人称:俺) なのは:高町嬢ちゃん チンク・ナカジマ(一人称:私、姉) ヴィヴィオ:ヴィヴィオ アインハルト:アインハルト ノーヴェ:ノーヴェ イクス:イクスヴェリア陛下 オリヴィエ:オリヴィエ聖王女殿下 ディエチ・ナカジマ(一人称:私) ヴィヴィオ:ヴィヴィオ アインハルト:アインハルト ノーヴェ:ノーヴェ スバル:スバル ウェンディ:ウェンディ イクス:イクス ウェンディ・ナカジマ(一人称:あたし) ヴィヴィオ:ヴィヴィオ アインハルト:アインハルト ノーヴェ:ノーヴェ ルーテシア:ルーお嬢様 スバル:スバル ミカヤ:ミカヤちゃん チンク:チンク姉 カリム:騎士カリム シャッハ:シスターシャッハ セイン:セイン姉 オットー:オットー ディード:ディード イクス:イクス カリム・グラシア(一人称:私) ヴィヴィオ:ヴィヴィオ シャッハ:シャッハ セイン:セイン イクス:イクス シャッハ・ヌエラ(一人称:私) ヴィヴィオ:ヴィヴィオ シャンテ:シャンテ セイン(一人称:私) ヴィヴィオ:ヴィヴィオ アインハルト:アインハルト、覇王っ子 ノーヴェ:ノーヴェ ウェンディ:ウェンディ シャッハ:シスターシャッハ シャンテ:シャンテ イクス:イクス オットー(一人称:僕) ヴィヴィオ:陛下 コロナ:コロナお嬢様 ノーヴェ:ノーヴェ ディード(一人称:私) ヴィヴィオ:陛下 リオ:リオお嬢様 ノーヴェ:ノーヴェ姉様 スバル:スバルさん ディエチ:ディエチ姉様 ウェンディ:ウェンディ姉様 イクス:イクス様 メガーヌ・アルピーノ ヴィヴィオ:ヴィヴィオちゃん アインハルト:アインハルトちゃん エリオ:エリオくん セイン:セイン ルーテシア:ルーテシア クイント:クイント シャリオ・フィニーノ(一人称:私) フェイト:フェイトさん オリヴィエ・ゼーゲブレヒト(一人称:私) クラウス:クラウス クラウス・G・S・イングヴァルト(一人称:僕) オリヴィエ:オリヴィエ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2053.html
夢だ。 紅い夢だ。 紅き焔は捧げた祈りを嘲笑い、森を村を人を焼き。 守人たる民はその身に流れる紅い血で、己と大地を染めあげる。 そして地上の灯を映した紅い空に浮かぶのは、精霊像を奪い去る巨大な……… リリカルなのはARC THE LAD始まります 『第一話:炎に消える真実』 「………ッ!」 ミッドチルダ北部の安アパートの一室でエルクは眼を覚ました。 室内はカーテンの隙間から入り込む月の光で蒼く浮かび上がっている。 静寂と秩序、夢とは対極にあるような自室。 「………今夜はもう眠れそうにないな」 汗で張り付いた衣服が気持ち悪い。 自嘲気味につぶやくとバスルームに向かう。 最近よく見るあの夢、あれは自分の過去の記憶だろうか。 温めのシャワーを浴びながら何度も自問するが何も思い出せない。 気分転換にハンターズギルドへ行ってみる事にしよう。 何か仕事があれば気が紛れるかもしれない。 着慣れた服に身を包み、相棒の十文字槍型デバイスを掴むと、エルクは夜の町へと出て行った。 ◆ 昼間は喧騒に包まれている大通りも、夜になれば人もまばらで物寂しい雰囲気となる。 そんな大通りの一角に佇むようにハンターズギルドはあった。 「何か仕事はあるかい?」 ギルドに入り声を掛けると、カウンターの難しい顔をした事務員はエルクを見て破顔した。 「丁度良かった。急な仕事が今入ったところで、お前さんを呼ぼうと思っていたんだ」 話によると空港で男が暴れているらしい。 しかもその男は強力な魔法を使い、管理局の捜査官では手に負えないとの事。 「ったく。天下の管理局様が聞いてあきれるぜ」 そうは言ったが、仕方の無い事かともエルクは思う。 多数の世界を管理するには人手がいくらあっても足りない。 ゆえに強い魔法が使えるもの、優秀なものは本部に引き抜かれ、地方の局員は二番手三番手ぞろい。 それゆえにハンターが仕事に困らないのだが………。 「管理局の手の回らない所を何とかするのがハンターだ。報酬は弾むから頑張ってくれよ」 「分かってるって」 「ヘリを待たせてある。すぐに向かってくれ」 「了解」 時間が経つほど状況は悪くなるものだ。 短い応答の後エルクはすぐに飛び出した。 ◆ 海上に浮かぶように建設された臨海第8空港。 ミッドチルダ内だけでなく、他の管理世界との橋でもあるこの空港に昼夜の区別など無く、常に多くの人で賑わっている。 だがそんな常とは異なり空港のターミナルの一角では緊迫した空気が張り詰めていた。 「近づくな!そうすれば危害は加えない!」 そう叫ぶのはマスクを着けフードを被った男。 その手には銃型のデバイスを持ち空港職員を盾にしていた。 「何をしている!さっさと捕まえろ!」 相対し、その男を取り囲むように陣取っているのは時空管理局の局員たち。 隊長格の管理局員が後ろから野次を飛ばすが、周りを囲んでいる局員は近づきたくとも近づけなかった。 先ほど一度魔法で吹き飛ばされており、その威力練度共に自分たちよりも上回っている事を身をもって味わったからだ。 「何度も言っているが空港の運行を停止しろ!僕の要求はそれだけだ!」 金でもなければ物でもない、この男の奇妙な要求に局員達は困惑もしていた。 離陸予定の飛行機は今の所なく、着陸待ちは輸送機が一機だけ。 こんな騒ぎを起こす必要などないようなものだからである。 それに男の使った魔法も怪我をしないよう加減されたものであったし、人質に対してもデバイスを近づけてすらいない。 なにより声やフードから覗く眼は犯罪者と言うよりはむしろ………。 そんな思考を遮るように天井のガラスを突き破り一人の男が乱入した。 ◆ 「もうすぐ着きます」 パイロットの声を受けて、エルクはヘリのハッチを開けて下を見下ろした。 海は満天の星空を映し、都市の夜景を背後に海に浮かぶ空港は幻想的で、平和そのものの様であった。 だが事実としてその中には犯罪者という異物が紛れ込んでいるのだ。 頭を戦いに向けて切り替えると、エルクは戦地へと夜の空気を切り裂いて飛び降りた。 着地してまず目に入ったのは驚いた様子の犯人と、半泣きの人質と見られる中年男性。 そして揃って似たように驚いている管理局の面々。 「ハンターだ、おまえを捕縛する」 エルクはそう宣言するやいなや、驚愕がその場を支配しているうちに行動に移った。 すなわち犯人のデバイス、及びそれを持つ腕への槍による刺突。 要するに不意打ちである。 本来ならば、いくつもの実戦経験に基づく正確にして鋭敏な一撃により、犯人の戦力を奪っていたはずだった。 だが今回の相手はそれなりの熟練者だったらしい。 いち早く冷静になると体勢を崩しながらもギリギリで槍を避けたのだった。 「へぇ………」 多少感心はしたが、しかしこれは予想の範囲内のことである。 槍の軌道は犯人と人質の間を縫うように突き進み、両者を分断する。 エルクはすばやくその隙間に滑り込むと、反撃の機会を与える間もなく、 「炎の嵐よ全てを飲み込め!」 己が最も得意とする魔法『ファイヤーストーム』を零距離から放った。 ◆ さすがに今度の一撃は避けきれなかったらしく、焼き焦げた犯人はピクリとも動かない。 「よし、制圧完了だな」 エルクがそう言って犯人のデバイスを取り上げた時、初めて管理局員らは状況に追いつき我に返った。 「だれだ!ハンターのごろつきなんぞを呼んだのは!」 声のした方を見ると、局員の輪の外側の安全圏にいた隊長と思わしき人物が喚き散らしている。 「揃いも揃って無能どもめ!これだけいてハンターの若造に遅れを取るとはな!」 どうやら自分たちだけで解決できなかったのが不満らしく、その怒りを部下にぶつけているようだ。 コネだけでのし上がった奴だろうとエルクは適当に予想する。 魔法の実力があるなら先頭に立って戦うだろうし、指揮能力が高いなら気力を削ぐ様な事は言わないはずだからである。 ひと通り愚痴を言い終えたのか、その男は周囲の局員を掻き分けてエルクの前まで来るとジロリねめつけてきた。 「犯人は我々が連行する。捕獲に協力した謝礼は払ってやるから、ハンターのごろつきはとっとと帰れ」 そう言われてエルクはさすがにむっとした。 ハンターはいわば便利屋だ。 仕事内容は今回のような荒事から子守やお使いなど多岐にわたる。 それゆえ金さえ払えばなんでもする輩と思われる事も少なくないが、エルクはこの仕事をプライドを持ってやっていた。 ゆえに何か言い返してやろうと口を開いたのだが、 「いやー、ハンターさんすばやい解決ご苦労様です。報酬はギルドに払っておきますので。隊長さんも犯人がなぜうちの空港を狙ったのかキッチリ絞り上げてください」 横から空港の責任者に口を挟まれ盛大に毒気を抜かれてしまった。 バインドで拘束されて連行されようとしている犯人を横目に眺め、手持ち無沙汰にしていると。 「何はともあれ、これでようやく輸送機が着陸できます」 空港の責任者が上を見上げつつ言うのを聞いて、エルクもそれにならってなにげなく上を見た。 ―――そこにあったのは悪夢だった。 突然の轟音と共に火達磨になった輸送機は、ジェット燃料を撒き散らしながら巨大なナパーム弾となって空港に直撃したのだった。 ◆ 空港全体を大きな揺れが襲った後、辺りは激しい炎に包まれる。 周囲の火の海、倒れ伏す人々、そのどちらにもエルクは既視感を感じた。 何かが脳裏をちらつくが、思い出そうとすると全身が拒絶するかのごとく不快な気分に苛まれる。 そんな折、不意に強力な魔力を感じ内へと向かう思考を外へと向けると、目に入ったのは打ち倒された局員と拘束を破り走り去る――― 「あの野郎!」 エルクが倒したはずの犯人。 魔法の直撃を受けたにしては回復が早すぎるのが妙だったが、そんなことを考えるよりも捕らえる方が先決だろう。 この事故と今回の事件、何か関係があるに違いない。 そう決断するやいなやエルクは犯人を追って灼熱の中へと飛び込んだ。 ◆ 事件による騒ぎがあったおかげか、客の多くはすでに空港の外に出ており、多数の局員が集まっていた為、残った民間人の誘導も比較的円滑に進んでいた。 しかし、この人数を持ってしてもカバー出来ないほど空港が広すぎた事、火の勢いが強く火の回りが速すぎた事。 この2つが災いし、空港内にはまだたくさんの民間人が取り残されていた。 「おとうさん………おねえちゃん………」 泣きながらうつむいて歩き回る少女もその一人。 自分はただおとうさんに会いに来ただけなのにどうしてこんな事になるのだろう。 そんな事を考えているとふいに上から影が差した。 誰かが助けに来てくれたのだろうか、淡い期待を胸に見上げた先にあったのは、無常にも自分に向かって倒れ掛かる石像の姿だった。 ◆ エルクは燃え盛る火の海の中を走っていた。 煙のために視界が悪く、それに乗じた奇襲の可能性も捨てきれない。 周囲を探りつつ慎重に進んでいると、目前の扉から人の気配を感じた。 (………ここか?) 扉を蹴破り中に入ると、部屋の中は燃えておらず、火災で電気も止まっていたため暗く、全体を把握できない。 「キュルルルルル」 獣のような爬虫類のような、なんとも形容しがたい唸り声。 エルクは警戒心を強めて声のした方へと槍を向けた。 「だめだよフリード」 今度は幼い少女の声、闇に慣れたエルクの目に映ったのは白銀の幼竜とそれを従える少女。 服装から見ておそらく逃げ遅れた民間人。 「お嬢ちゃん怪我は無いか?」 犯人の確保より、民間人の救出を優先に考えたエルクはこの少女に近づくが、少女の方は怯えたように一歩下がった。 そんな時ふと見えた少女の目、その目に宿るものにエルクは見覚えがあった。 この仕事をするようになってよく目にするようになった、何らかの犯罪に巻き込まれ人を信じられなくなった者、行き場を失った者の持つ負の感情。 まさしくそれがこの少女の目にはあった。 様々な理由が考えられたが、そのいずれにしてもこのままにして置く訳にはいかない。 相手の警戒心を解くために体勢を低くし目線を合わせる。 「怯えなくていい。俺はエルク、ハンターだ。お嬢ちゃんを連れ出しに来たんだ」 「私を………?」 「ああ」 そう言ってエルクは少女に微笑を向ける。 「私はこんどはどこへ連れて行かれるのでしょう?」 「あ~、それはお嬢ちゃんがどこに行きたくて何をしたいかによるな。何せハンターは人の願いを叶える仕事だから。お嬢ちゃんはどこへ行って何がしたい?」 思案している様子の少女により強い笑みを向けると、エルクは自分の着ていた上着を火避けのために被せる。 「ここは危ない。とりあえずここを出よう」 少女を抱えエルクは再び炎の海に踏み込んだ。 ◆ 部屋の外では炎がますます勢いを増し、紅蓮の他は殆ど何も見えない。 (出口はどっちだ………) 辺りを見渡していると、ふと何か聞こえた気がする。 気のせいかとも思ったが耳を澄ましていると、炎のはぜる音に混じり聞こえてきたのは………。 (まだ子供がいるのかよ!) エルクは微かな声を頼りに駆け出した。 しばらく進むと辿り着いたのは吹き抜けのホールであった。 憩いのために植えられた観葉植物も今ではただの薪として空港の壁を黒く焼いている。 その中央には倒れた石像とその下に広がる血溜まり。 (まさか………) 最悪の想定と、一縷の望みを託しエルクが近寄ると、 「あんたは確か………」 逃げ出したはずの犯人がそこにいた。 「生きているか?」 「………ああ………さっきの、ハンターさんか」 「事件を起こしたツケがまわったな」 「ははは………皮肉なものですね………」 エルクは槍を一閃させ、石像だけを切り払った。 巻き上がる粉塵、それが収まると先程の剣圧でだろうか、男のフードが外れていた。 「おまえ………その顔は」 見えたのは異形の姿、顔全体にトカゲのような鱗が生えている。 「魔が、差したんですよ………強い力を、得られると聞いて………おかげで、半身が潰れても、死に切れません………」 自らの愚かさを嘆くような笑みを浮かべると。 「頼みがあります………これを、ティアナ、ランスターという子供に、渡して欲しい………報酬も、ある………」 そう言って手帳と使い古した財布をエルクへと差し出した。 「心配するな。助け出してやる。だから―――」 「向こうに………女の子が、行った………その子を………」 遮るように言われた事にエルクは舌打ちすると手帳だけ受け取り。 「依頼は受けた。報酬は仕事の後でおまえから受け取る。だから勝手にくたばるんじゃねぇぞ」 そう言うと周囲に防壁を張り、示された方へと走り出した。 エルクは通路を突き進む、だが行けども行けども子供の姿は無い。 (あいつ嘘ついたんじゃねぇだろうな) そう考え出したとき目の前に現れたのは少女を抱えたツインテールの白服の女、浮いている事から見て空戦魔導師だろう。 「あなたがこの子を助けてくれたお兄さんですね」 出会い頭に言われたその言葉を聴いて、エルクはふと気がついた。 自分の槍をかわせるやつが普通石像の下敷きになる訳が無い、だとしたらまさか――― 「さあ、早く脱出を………」 エルクは相手の言葉を聴いていなかった。 自分の張った障壁が破られたのを感じたからである。 「この子を頼む」 背中の少女を相手に押し付けると、制止の声も無視して来た道を全速力で戻った。 ◆ 「いい格好だなティーダ」 「………」 「勝手に行動を起こすからこういう事になるのだよ」 エルクがホールに戻ったとき、そこに居たのは中央で犯人の男―――ティーダを取り囲むようにして立つ黒服達。 「カサドール執務官、レリックの回収終わりました」 「ご苦労………例の娘は?」 「不明です、この火災に紛れてどこかへ行ったものと思われます」 「ふん………まあいい、あれはたいして重要ではないからな。一応捜索隊は出しておけ」 指示を出す素振りは管理局の部隊の様だったが、それにしては服装が変であるしエンブレムも無い。 そんな集団を見てエルクは警戒感を露にして近寄った。 「なんだ、おまえは?」 声を掛けたのはこちらに気がついた黒服。 「ハンターだ。そいつは俺がギルドに引き渡す」 「ハンター?ああ、あのクズの寄せ集めか。悪いがこのキメラは我々が連れ帰る」 「何の権限があってだ!」 露骨な侮辱にエルクは激昂するが、 「地上本部秘密部隊カサドール一尉だ。問題なかろう。………引き上げるぞ」 懐から取り出した局員カードを軽く振ると、ほぼ同時に転送の魔方陣が展開される。 制止する間もなく黒服達は消え去り、後にはエルクだけが一人残された。 最後に一瞬だけこちらを見たあの男―――ティーダの顔、あれはまるで死を待つ殉教者のように穏やかで………。 「………ッ!怒りの炎よ!敵を焼き払え!」 行き場の失った怒りをそのままに己の魔法『エクスプロ-ジョン』を正面の壁に叩きつける。 桁外れの爆発と共に外まで達する大きな風穴が開いた。 外から冷たい夜の海風がエルクへとやさしく吹き込むが、エルクの心は全く晴れなかった。 そのまま外に出るとちょうど本局の航空魔導師隊が飛んできているのが目に入る。 少し前までならその命を賭して活動する姿に感心する事もあったが、あんなやつを見た後ではまるで道化のようにしか見えない。 もう帰ろう今日は心も体も疲れきってしまった。 そう思いながら歩こうとすると、服の裾を引かれるのを感じた。 後ろを見るとそこに居たのは………、 「ハンターさん、お願いがあります。私を管理局から逃がしてください」 白銀の幼竜を連れた少女。 どうやら今日はまだ忙しいらしい。 ◆ 明け方のニュースで昨日の事件が放送されている。 自分の部隊を作ると意気込む友人を応援しつつ高町なのはは昨夜の事を思い返していた。 要救助者の連絡を受け駆けつけた先にいた女の子。 目立った怪我も無く無事保護出来て、いざ脱出しようと抱き上げたとき、助けてくれたおにいちゃんが中に居ると言い出した。 そこにちょうどそれらしい人が来たから安心したけど、どうやら違ったみたいで自分に別の女の子を預けてどこかへ行ってしまった。 二人を外に逃がせて、急いで戻ったとき聞こえてきたのは『レリック、キメラ、秘密部隊』。 管理局には自分の知らない事があるみたい。 真実を知るには――― 「少数精鋭のエキスパート部隊、それで成果を上げていったら上のほうも少しは変わるかもしれへん。私がもしそんな部隊を作る事になったら協力してくれへんかな?」 「そんな楽しそうな部隊に誘ってくれなかったら逆に怒るよ」 ―――上を揺さぶる必要がある。 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2172.html
注意)本ssは原作とは異なる設定・背景事情・ストーリー展開で進んでいきます。 そういうものが苦手な方はご注意下さい。 『闇の書』事件終結から十年。 次元世界は――人間は平和な日々を貪っている。 飢えた胃袋に破滅という酒が注がれるとも知らず……。 平穏は、あっさりと崩れ去った。 アンチスパイラルと名乗る謎の勢力による全次元世界への宣戦布告、円と直線で形成された異形の質量兵器――後に〝ムガン〟と呼称――による破壊活動。 不安が毒のように世界に浸透し、終末思想やテロの横行。 疲弊した人間達の精神を、際限なく現れる敵の襲撃が更に追い詰めていく。 その悪循環、その無限螺旋。 そんな時だった。 一人の男が、ミッドチルダに現れたのは……。 戦場に突如現れた、一体の見慣れぬ人型の質量兵器。 その右腕――身の丈を遥かに超える巨大なドリルが唸りをあげる。 『ギガドリルブレイク!!』 轟く咆哮、突き抜けるドリル。 その度に、空を覆い尽くすムガンの大群が、まるで消しゴムでもかけられるかのように爆破消滅していく。 その光景を、男達――時空管理局の武装局員達は呆然と見上げていた。 自分達があれだけ煮え湯を呑まされた敵を、あんなにも簡単に倒している……。 それはまるで悪夢か、奇跡のようにしか思えなかった。 しかし如何に圧倒的な攻撃力を誇ろうとも、数千ものムガンの軍勢に単独で立ち向かうというのは流石に無理があったらしい。 貪るような勢いで敵の数を減らしていきながら、アンノウンもまた確実に傷ついていった。 腕は千切れ、脚は吹き飛び、顔面を模した胴体には無数の亀裂が入っている。 初めはその驚異的な自己修復能力で破損を即時再生させていたが、もうその余裕も無くなったのか、ダメージをそのままに戦い続けている。 そして遂に力尽きたのか、糸の切れた人形のように地面に倒れ伏した。 限界を超え、スクラップと化したアンノウンの周囲に、生き残りのムガン達がハゲタカのように群がる。 アンノウン頭部のハッチが開き、搭乗者らしき男がゆっくりと立ち上がった。 ガラクタ同然の愛機を見下ろし、吐息を零す。 ――ガンメンなど、所詮はこんなものか。 胸に去来する思いは、かつて『己』が口にしたもの。 しかし男――ロージェノムの口は、自然と別な言葉を紡ぎ出していた。 「……よくぞここまでついて来てくれた。ラゼンガン」 言ってから、ロージェノムは虚を衝かれたように黙り込んだ。 自分は、何故こんなことを言ったのだろうか? たかが機械――それも自分と同じ、仮初の存在に過ぎないというのに……。 自問するロージェノムに、しかし答えを見出す時間は与えられなかった。 アンノウン――ラゼンガンの周囲を取り囲み、様子を窺っていたムガン達が、動き出した。 「ふん……」 見慣れた――寧ろ見飽きた敵の無機質な姿を一瞥し、ロージェノムはつまらなそうに鼻を鳴らす。 瞬間、ロージェノムの禿頭から炎のたてがみが噴き上がった。 全身の筋肉が膨張し、血管が浮き上がる。 「わしを……誰だと思っている!!」 怒号と共にロージェノムはコクピットを蹴り、手近なムガンに殴り飛ばした。 殴られたムガンは錐揉み回転しながら吹き飛び、周囲の味方を巻き込みながら爆破四散する。 魔導師達は再び唖然とした。 デバイスもバリアジャケットも無い生身の人間が、素手でムガンを撃破した……! 同じ人間とは思えぬロージェノムの力に男達は畏怖し、しかしそれ以上に、これ以上も無い程心強い味方の出現に興奮していた。 血湧き肉踊るとはこのことだろうか……? 満身創痍、疲労困憊、魔力も尽きかけたこの絶望的状況で、それでも力が湧いてくる。 螺旋の本能――魂の奥底から湧き上がる熱い衝動に突き動かされ、男達の反撃が始まった。 形勢は完全に逆転した。 雄叫びを上げながら次々とムガンを破壊していく男達の螺旋の息吹は、先陣を切って戦うロージェノムにも伝わっていた。 髭に覆われた口元が吊り上がり、獰猛な笑みを形作る。 何故今頃ムガンが暴れているのか、何故消滅したはずの自分がここにいるのか、そもそもここはどこなのか。 疑問は山程あるが、今は取り敢えずどうでも良い。 どうせ二度も死んだ身、今更何が起ころうとも驚きはしない。 今はただ、螺旋の衝動に身を任せ、螺旋の明日の為に戦おう。 一人の戦士として。 ――変わられましたな、螺旋王。 かつて部下に言われた言葉が、ロージェノムの脳裏に蘇る。 ああ、確かに自分は変わった。 否、元の自分を取り戻しただけだ。 自分が解放されたのは肉体の頚木からではない。 己を偽り、螺旋の衝動を押し殺しながら千年の倦怠の中で自らを腐らせていく……そんな魂の牢獄からだ。 自嘲するロージェノムの背後から、その時、一体ムガンが襲い掛かった。 咄嗟に回避しようとするロージェノムだが、疲労とダメージから反応が一瞬遅れる。 その時、 「ディバインバスター!!」 凛とした女性の声と共に、桜色の閃光がムガンを貫いた。 ……時は少し遡る。 ミッドチルダ東部の地方都市に出現した敵質量兵器、その討伐部隊からの救援要請に、時空管理局は二人の空戦魔導師を派遣した。 高町なのは一等空尉。 フェイト・T・ハウラオン執務官。 共に弱冠19歳にして魔導師ランクS+に認定され、管理局の看板とも言える天才魔導師である。 現場に到着した二人の魔法少女は、二重の意味で絶句した。 一面に広がる瓦礫の山。 立ち上る黒煙、焼け焦げた地面。 上空から見下ろすと、はっきりと解る。 この街は、もう死んでいる。 「酷い……」 惨状を目の前にし、フェイトが表情を曇らせる。 そして驚いたことはもう一つ。 救援要請を受けて現場に急行したなのは達は、部隊の全滅、或いはそれに近い絶望的状況を予想していた。 しかし現実に目の前に広がる光景は……、 「オラオラオラぁっ! 無機物風情が調子に乗ってんじゃねぇっ!!」 雄叫びを上げながら次々とムガンを破壊していく武装局員達。 空で、地上で絶え間なく響く爆砕音。 ボロボロな部隊員達の姿は、確かに増援を要請しても不思議ではない程酷い有様ではある。 しかし戦況は、こちらが圧倒的に優勢だった。 ……これ、救援いらないんじゃない? 何やら妙な熱気を帯び、自暴自棄――というよりは調子に乗っているような部隊員達の勢いを前に、二人はそう思わずにはいられなかった。 そんな男達の中で、一際異彩を放つ者がいる。 武装局員達に紛れーー否、寧ろ先陣を切ってムガンを破壊している一人の巨漢。 地上に降下したムガンが攻撃を仕掛ける度に、その驚くべき身体能力で逆に返り討ちにしている長身の男。 筋骨隆々とした身体からは魔力の欠片も感じられない、純粋に身体能力だけで戦っているようである。 そして何より……頭が燃えていた。 「何、あれ……?」 呆然と呟くなのはに、フェイトは全力で同意した。 素手で敵を殴り飛ばして痛くないのか、頭が大変な事になっているが無視して大丈夫なのか、そもそもあの男は何者なのか。 疑問……というよりもツッコミ所が多すぎて困る。 だが驚いてばかりもいられない。 浮遊するムガンの大群――目測だが未だ数百は残存している敵が、なのは達の存在に気づいた。 二人は表情を引き締め、各々の右手に握る宝石――デバイスに語りかける。 「レイジングハート、お願い」 ≪All right. My master≫ 「いくよ、バルディッシュ」 ≪Yes sir≫ 主の声に応え、デバイスがその姿を変える。 なのはの右手に握られる紅と白金の魔導師の「杖」――インテリジェントデバイス・レイジングハート。 フェイトの手の中に出現する黒鋼の戦斧――インテリジェントデバイス・バルディッシュ。 十年近い月日を共に戦い続けてきた、二人の大切な「友達」である。 最初に動いたのは、なのはだった。 足元に魔方陣が出現し、構えられたレイジングハートの先端に光が集束する。 流星のようになのはの許に集う、様々な色の魔力光――先に戦っている武装局員達の戦闘の残滓である。 なのは自身の桜色の魔力光と重なり合い、虹色の光球となってその大きさと輝きを増していく。 「スターライトブレイカー!!」 気合一発、なのははデバイスを振り下ろした。 レイジングハート先端から虹色の光の奔流が放たれ、ムガンを呑み込んでいく。 今の一撃で敵勢力の二割弱、その誘爆で更に幾らかのムガンが一瞬で消滅した。 フェイトも負けていなかった。 なのはの砲撃で統制の崩れたムガン達に突っ込み、敵陣を引っ掻き回して同士討ちを誘う。 「ディバインバスター!!」 「フォトンランサー!!」 なのはの援護を受けながら、次々と敵を撃破していくフェイト。 勢い衰えぬまま敵の数を減らしていく武装局員達。 数百――なのは達が到着する前は数千も存在した敵は、今や数える程しか残存していない。 戦闘の終わりは近い……誰もがそう思ったその時、一体のムガンが燃える頭の男――ロージェノムに攻撃を仕掛けた。 咄嗟に避けようとするロージェノムだが、反応が一瞬遅れる。 反射的になのははムガンを撃ち抜いていた。 なのは達の存在に気づいたのか、緩慢とした動きでなのはを見上げるロージェノム。 ……目が合った。 これが、螺旋の王と魔法少女達の出会いだった。 (面妖な……。人が空を飛んでおるわ) 空どころか宇宙でさえも神出鬼没に現れた自身の娘のことは棚に上げ、口には出さずに呟くロージェノム。 (あー……、髪の毛燃え尽きちゃってる) 螺旋の炎の消えたロージェノムの禿頭に目を遣り、申し訳なさそうな顔をするなのは。 ……第一印象は、互いにあまり良好とは言い難かった。 天元突破リリカルなのはSpiral プロローグ「わしを……誰だと思っている!!」(了) 目次へ 次へ